聖者は海に還る

聖者は海に還る

聖者は海に還る

「聖者は海に還る」山田宗樹(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、心理学、カウンセラー

夫を癌でなくし、幼児を抱えながら、保健室教護の教諭を務める梶山律。彼女の勤める中学高校一環教育の私立の進学校で、事件は起こった。中学3年の生徒が、教師を射殺し、そして自らの命を絶った。 動揺する生徒たち。保護者からの対応を迫られ、また事件の生徒への影響を考えた学校は、カウンセラーの導入を決めた。カウンセラーは20代の好青年、比留間亮。彼のカウンセリングは、とても効果的で、話しを聞いてもらった生徒は、口々に、彼のカウンセリングを褒め称える。目に見えるように変わる生徒たち。しかし、あまりに効果がありすぎるが故に悩む比留間。
一方、比留間をカウンセラーとして育てた村井は、学会で傍流の「定岡療法」の後継者。定岡療法に従事し、結婚することもなく一生を終えようとする自分に気づく。定岡療法は、もっと注目を浴びるべき手法だったのに。そんなとき、愛弟子である、比留間がカウンセラーを辞めたいと申し出た。村井の心に影が走る。
心理療法としてのカウンセリングを中心した物語に、梶山律と比留間の恋が絡む。
基本的にはおもしろかった。しかし、とてもおもしろかったと言い切れないのが残念。本書はもっとおもしろくなる要素が多く、それ故に不満が残る。
不満の幾つか、。まず、前半と比べ、後半があまりにあっさりしている。もっと、書き込んでくれ。物語のテーマ、骨子はとてもいい。しかし、それを活かすのに必要な描写が足りない。主人公の比留間にせよ、彼の心を握る村井にせよ、心の動きを含め、あともう少し描写が欲しい。梶山律の描写はまずまず。だらだらと書き連ねた冗長な描写とは違う、この作品をもっと活かす描写があと少し。
また、問題が解決されない部分も多い。冒頭の中学生の銃撃事件は、本書では解決されることのないエピソード、本編への導入にすぎなかった。期待を肩すかしされた。
目に見えるほどの成果を上げた、比留間の生徒へのカウンセリングも本当に有効だったのか。その後の生徒に後遺症を与えることはなかったのか。それが気に掛かる。たとえ小説であっても、これ以上心の被害者が生まれるのは、あまりに切ない。しかし、これは比留間のカウンセリングは、クライエントの心を開くような、安心感、信頼感を与え、話しをさせていただけという描写だったので、問題はないと思いたい。しかし、気になる。頼む。



最後は解決されないが、これは仕方がない。希望が持てる終わり方だと思い、読み終えることにして☆3つ。う〜ん。