ヘーメラーの千里眼

ヘーメラーの千里眼

ヘーメラーの千里眼


「ヘーメラーの千里眼松岡圭祐(2004)☆☆☆☆☆
※[913]、国内、ミステリー、小説、千里眼自衛隊、空中戦

この4月の終わりに読んだ「千里眼 トランス・オブ・ウォー」http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/1918210.htmlの前作。「トランス・オブ・ウォー」(☆5個)も、おもしろかったけど、本書もおもしろかった(☆4.9個)。本書では、主人公岬美由紀と敵対するアルタミラ精神衛生という企業の記述に、もっとリアリティーがあったらな、とそこが☆マイナス0.1個。惜しい。
悔しいのは、やはり、順番に読むべきだった。本書で書かれたことが伏線となり、次作の「トランス・オブ・ウォー」に続いている。見事!もちろん、作者の計算なんだろうな。未読の方は、ぜひ「ヘーメーラー千里眼」「トランス・オブ・ウォー」と読み進めることをオススメします。オススメ、ではない、読め!こんなにおもしろい作品はないぞ、だ。
ネタバレにならないと思うので、明かすが、伏線は美由紀の家族関係。まったくテーマの違う、二作が巧く繋がっている。 千里眼シリーズは、もちろん一作目から読むほうがいいが、各作品を単独で読んでも、しっかりおもしろい。しかし繰り返す。本書「ヘーメラー〜」と「トランス・オブ・ウォー」は続けて読むべきだ。

航空自衛隊のエースパイロットが、演習中に少年を死に至らしめた。演習中の移動標的を、新型空対地ミサイルで撃破。まさか、その移動標的に少年がもぐりこんでいたとは!パイロットの伊吹一尉が、手順どおりの確認をしてさえいれば、移動標的にもぐりこんでいた少年をその体温から判別できたはず。しかし、新型兵器の威力で、少年の姿形は跡形もなく、残されたのは蛋白質をはじめとする成分の痕跡だけだった。事故は自分の責任であり、自分は異常である、事故を起こしたパイロット伊吹は、精神鑑定を要求した。その精神鑑定について、防衛庁は元自衛官であり、また「千里眼」と呼ばれる岬美由紀を指名した。自衛隊の仕事はもうしない、一度は断った美由紀だが、最終的に精神鑑定の依頼を受ける。かっての先輩であり、恋人であった伊吹の精神鑑定を。
一方、人体に薬物反応の出ない新種の麻薬「麝香片」が、中国から大量に密輸されている。麻薬取締官篭目は、密輸船の摘発について防衛庁に協力を依頼する。密輸船の護衛に戦闘機ミグがついており、またそのパイロットは、元中国空軍のエースだという。航空自衛隊で、敵のパイロットに匹敵するの力量を持つのは、事故を起こした伊吹のみ・・。
物語は伊吹の事件を中心に、麻薬密輸、民間企業「アルタミラ精神衛生」が絡み合い、そして最後はハリウッド映画なみの、手に汗握る、空中戦へ。

ひさしぶりに、カタルシスを得ることのできた作品。大団円。とても気持ちのいい終わり方。
娯楽作品としても一級品だが、それ以上の何かがある。主人公美由紀、そして航空自衛隊パイロットエース伊吹はこの事件を通じまた、ひとつ成長していく。前向きに、成長していく物語は、とても好ましい。

薬物中毒となったパイロットや、除隊した美由紀がまた自衛隊に戻って戦闘機を操縦するなんて、ありえないとかの突っ込みは無意味。これは「小説」なんだ。

しかし、542ページ、ニ段組。こうした作品を何作も、破綻なく書き上げる松岡圭祐の評価、もっとあがるべき。