野ブタ。をプロデュース

野ブタ。をプロデュース

野ブタ。をプロデュース

野ブタ。をプロデュース白岩玄(2004)☆☆☆★★
※[913]、国内、小説、現代、青春、高校生活、文藝賞

辻ちゃん加護ちゃんが卒業らしい。」
この一文から始まる、第41回文藝賞受賞作(同時受賞「人のセックスを笑うな山崎ナオコーラ)。
辻ちゃん加護ちゃんが普遍性を持った存在か?今を語るとは、今の風俗を語ることか?最近、こぉいう描写を取り入れる小説に触れることが多いが、正直とまどってしまう。このあと何年も経って初めて読む読者に、いま読んでる読者と同じ読後感を与えることができるのだろうか。いや、読者自体が時代とともに変わってしまうのだから、もともとそんなことを考えること自体意味がないのか。

主人公桐谷修二、クラスでもそこそこ人気のある、高校二年生。軽く、ノリのいい会話で、級友たちと楽しく過ごす日々。みんなが狙っていたマリ子とは手作り弁当を作ってきてもらう仲。俺たちががつきあっているとみんなは、もしかしたらマリ子も思っているが、実はそうでない。
俺は、いつも心の中で着ぐるみをぴっちり着こんで、みんなの期待する修二を演じているのだ。
そんなある日、クラスに転校生がやってきた。どんな奴がやってくるのか、興味津々の級友たち。しかしやってきたのは、まるっきりイケていないメガネをかけたデブだった。小谷信太、野ブタ?いや、コタニシンタ。級友の興味が、あっというまに失せるとともに、逆に脂ぎった姿に気持ち悪いと敬遠され、そしていじめられっ子へ転落。そんな信太を、ひょんなことから俺はプロデュースすることになった。みんなに受ける奴にするために。俺の努力の結果、野ブタは、みなの人気者になっていった。
そんなある日、コンビニの店内から見かけた店外の暴力事件にかかわらないようにした俺は・・。

「俺」が語る一人称の文体は読みやすく、また修二の語る内容が共感できた。心の着ぐるみを着た俺。自分が何をやりたいのかもわからず、ただ楽しくみんなと馴れ合っている日々に疑問をもちつつ、脱却できない修二。信太をプロデュースすることで、修二の何かが変わっていたなら、きっと、この作品に対する僕の評価はもっとあがっていたと思う。それがありきたりの話になったとしても。
コンビニの事件をきっかけに孤立する修二は、しかし、それでも、自分を変えることができなかった。そして最後に自分自身をプロデュースすることにするが、それさえも心の着ぐるみの着替えにしかすぎないのではないかと思わせる。気持ちのいい終わり方でもない。
ちょっと期待していた作品だけに、ちょっと残念だった。

蛇足:コンビニの事件だけで修二を孤立させてしまう、修二の級友たちの姿が今の若者の本当の姿なら、あまりにやるせない。