戦国自衛隊1549


戦国自衛隊1549

戦国自衛隊1549

戦国自衛隊1549福井晴敏(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、小説、SF、タイムスリップ、IF物、戦国自衛隊

うう。読みにくい。って、本文じゃない。版型。横組みなので、すげぇ広がって、正直読みにくいカタチ。家でゴロゴロ寝転びながら読んだ。
正確には半村良「原作」でなく「原案」。福井 晴敏「作」, 寺田 克也「画」だ。寺田克也の画が迫力があるが、必ずしも作品として不可欠であったかどうかは疑問。同様に横組みの版型も不可欠ではない。
戦国自衛隊」というキーワードを主題としたひとつの作品として読む限り、読みやすく、かつ、そこそこ書けていて、おもしろい。
尤も、福井晴敏を期待すると、あっさりしているかも。福井晴敏はデビュー作より読んできてはいるが、それほど思い入れがない。そのためか、個人的にはオススメの一冊。
それぞれの立場によって変わる正義、男たちが己の信念のためにぶつかる。勧善懲悪ではない。どちらの立場に心を寄せるか、だ。

読了後、ネットを覗くと、本書ではなく、本書を原作とした映画の話しで持ちきり。旧作の、たった30人対2万人の戦闘といったスペクタクルに比して、どうこうといった意見が多いようだが、なるほど期待するものが違うと、こういう意見になるのか。本書自体については、福井晴敏にしては・・、という意見も見られるようだ。
期待するものを充たされぬ不満。その気持ちは、理解できる。しかし、敢えて言おう。本書は単独の作品として、充分おもしろい。

2005年現在、TVでは平成ライダーシリーズとして「仮面ライダー響鬼」が放映されている。最近は、やっとバイクに乗り出したが、当初はアシスタントの女の子の自動車に同乗、まずライダー(乗り手)でない。果ては仮面ライダーになるのは改造手術でなく訓練・修行の賜物であるとか、オリジナルライダーの設定はどこへいった、の作品である。しかし、この作品、単独の作品として見た場合、とてもおもしろい。物語、設定、適度なユーモア交えた演出。だが、「原作」は相変わらず石ノ森章太郎。確かに、この作品も各所に「仮面ライダー」への思い入れがたっぷり、「仮面ライダー」へのオマージュ作品であることは認めよう。しかし、もうそろそろ「原作」石ノ森章太郎の呪縛から解放されてもいいのではないか。

本作品にも同様なことを感じた。思い入れとか、それぞれ色々あるので一概に言うのもなんだが、この作品は前作と同じ「戦国自衛隊」であるが、それは同じモチーフでしかない。前作と比較することが間違っている。うろ覚えだが、前作は、戦国時代にタイムスリップした自衛隊部隊が、戦国という時代でどう生き延びていくかの話しであった。対して、本作は、先に戦国時代にタイムスリップした部隊を連れ帰り、平成の時代に顕在してきた歴史の歪みを元通りに直そうとする作品。テーマが全然違う。

アクエリアス計画−11年周期で起こる太陽の強力電磁波が発生した場合に、軍事情報・通信回線をシルドし支障なく使えるようにするための計画。1999年7月、そのための実験が、富士山麓自衛隊演習場で行われることとなった。部隊は、的場一佐を隊長とした、自衛隊の愚連隊ともいえる第三混成軍。かっては優秀な指揮官であった的場だが、法律にかんじがらめにされ、海外派遣において、武器の携帯を認められない自衛隊において、「戦える自衛隊」を目指した海兵旅団構想を発案し、法案可決に尽力した。法案が廃案になった際、激しく反抗した結果、もてあまされた状態となっていた。
いよいよ実験の開始、運命のイタズラか、人工的に電磁波を発生させる装置を稼働したと同時に、太陽のフレアーが吹き上げ、本物の強力電磁波が発生、ふたつの電磁波が重なった。その結果、第三混成軍の姿は消失した。後に残されたのは、そこになかったススキ野原。
部隊の消失の原因と、部隊の行方を調査して一週間が過ぎようとしていた。現場では突然、部隊が消失した時と同じように霞が舞い、ススキ野原が忽然と消えた。そして、そこには騎馬に乗る戦国時代の武士の姿があった・・。
6年が過ぎた。2005年。的場の発案した海兵旅団構想が潰えたとき自衛隊を辞め、そのあげく職を転々とし、しがない営業マンとなっていた鹿島のもとに、神崎と名乗る女性が現れた。事故死したと聞いていた的場を捕獲するのを手伝って欲しいという。死んだと思っていた的場が、実はタイムスリップし、戦国時代にいるという。そして、生き延びようとしていることが歴史を変える作用となっているらしく、その歪みが現代に現れてきている。このままでは、その歪み、ホールと呼ばれる暗黒の闇に、現代の全てが飲み込まれてしまう。ついては、かって的場が作製した、絶対勝利不可能な演習シナリオで、唯一勝利を収めた鹿島の協力が必要だと言う。
部隊消失の再現を行い、現代より部隊を送り、そこで的場らを捕獲し、現代に戻ってくる。現代に戻るためには、タイムスリップ後の一週間後に、もう一度タイムスリップした場所に戻ること。その場所ではもう一度だけ揺り戻しがあり、現代に戻ってくることが出来るはず。限られた時間で的場らを捕獲することができるのか。鹿島を戦闘アドバイザーにした回収部隊「ロメロ」は過去に向かった。1549年、戦国時代へ・・。

IF物と呼ばれる、SFのジャンル。もし、〜ならば、。タイムスリップと、タイムパラドックス、二つの古典的とも言えるSFのテーマで描いた作品。論理的にも破綻なく、存外楽しい読み物であった。主人公鹿島に感情移入しつつも、的場の行動が決して納得できないわけでない。そういう意味で、大人の小説であった。
期せずして、いい読み物に出会えた。そんな一冊