ホームタウン

ホームタウン

ホームタウン

「ホームタウン」小路幸也(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、家族、北海道、血


ちょっと、期待しすぎたかな・・。正直な感想。
ネットの本読み人仲間の感想を読むと概ね、好評。
ぼくは、またもやへそ曲がり。


好きな作家の一人、小路幸也。だが、前作「HEART BEAT」に引き続き今回もうまく馴染めなかった。作品的には巧い、というか技巧的。構成とか。ただ描こうとするのが最後の皆の笑顔なら、題材選びはどうだったのだろう。失踪した妹の謎を解くために、同じ時期に失踪した妹の婚約者の探す。勿論、妹のことも並行して探すのだが、すっかり主客転倒している印象。いや、主人公がホームタウン(=故郷)に戻ることが大事な物語であるということは理解できる。しかしならばそこにもう少し、妹の婚約者ではなく、妹の失踪というファクターを絡めてもよかったのでは。魅力的なキャラクターたちが登場しているのに、活かしきれているとはいえない。とくに全てを受け入れ、あたたかく見守るばあちゃんをもっと活かしてほしかった。
どうも、最近の小路幸也は巧く書くほうへ向かいすぎてないか?文章とか、スタイルとか。作品のテーマはいい。でも、もっと素直に書けたのでは。


札幌の老舗デパート三国屋に勤める柾人。顧客管理部<特別室>、27歳にして主任にして部長、そしてたった一人の専従社員。この仕事、簡単に言えばデパートの探偵。「百貨店にとってお客様は神様。お客様の平穏無事な生活があってこそ我々の商いは成り立つ。ならば、その生活の平穏無事を守るのも我々の仕事の一環になるだろう」。創業者の一声で、当時の上得意、つまり政財界の大物たちのトラブルに対処する組織が三国屋にはひっそりとできていた。今や古き良き時代を夢見る会長の道楽。過去にあったような仕事はほとんどなく、現在では社内外の不正取引等のの調査、上得意の奥様からの売掛金回収などが日常業務。柾人が、この部署に就職できたのは、尊敬する上司であり、親代わり、人生の先輩であるカクさんのお陰。カクさんは、入社以来の会長の懐刀。入社以前は、某首相の側近だったとか、米軍のスパイだったとかきな臭い噂の持ち主、どうやらかなり本当のことらしい。
柾人には人に言えない過去がある。そのため、遠縁に当たる三国屋の会長のつてで、カクさんを親代わりに妹の木実と頼っていた時期がある。今では柾人も木実もそれぞれ、成長し、独立した。
そんな柾人は、いま自分の調査した事件により息子を失ったばあちゃんと、ただ一人生き残った小学五年生の孫、里菜の住む古い家に下宿している。ばあちゃんは自分の息子を死に追いやった張本人が、柾人とだとうすうす気づいているだろう。しかしそれを責めるでなく、仕事に疲れた柾人を静か優しい微笑みで受け入れる。そんな日常。
ある日、柾人に同じ街に住んでいながら会うことのなかった、いや会えないでいた妹、木実より数年ぶりに手紙が届く。「結婚します。」悩みに悩んだ結果。相手の男性にも、柾人と木実の過去を話した。その上で、一緒に悩んで行きたいと言ってくれた。カクさんと二人喜ぶ柾人。相手は偶然だが、二人が勤める三国屋の旭川店勤務の青山芳之。旭川は、柾人と木実が噂から逃げ出すように捨ててきた故郷。木実のしているディスプレーの仕事を通し、知り合ったらしい。カクさんの調査によれば、真面目で評判がいい。ちょいと頑固で玉に上司とぶつかる。ご面相は十人並みで、いい男とは言いがたい、しかしいいツラしてた。お天道様が似合ってた。柾人は心より、妹木実の幸せを願った。
一本の電話が柾人にかかってきた。<あさかわみゆき>と名乗る、木実と一緒に暮らしている友人。木実の行方がわからない。荷物の一切を置いたまま。携帯電話も、財布さえも。最後に見かけたのは、普段着で出て行く木実の姿だったという。調べてみると、木実はパソコンも、携帯もすべての痕跡、データを消し、仕事もすべてキャンセルをしていた。幸せの結婚を控えた、妹の謎の失踪。
一方、調査のなかで、木実の婚約者である青山が、同じように謎の失踪をしていることがわかる。
妹とその婚約者の失踪を調べるため、柾人は捨てた故郷、旭川の街へ向かう。そこで待っていたのは懐かしい人々との温かい交流、協力、そして三国屋デパートを舞台にした犯罪。
果たして、柾人は木実を見つけることができるのだろうか。そして、柾人と木実は、暗い過去を乗り越えることができるのだろうか・・。


中学生だった柾人と、小学生だった木実に降りかかった暗い過去。それは、自分たちの血を疑うような出来事。多くの本読み人が、この点にそれほど拘ることについて疑問を投げかけているが、僕は敢て異を唱えたい。思春期に二人を襲った過去は、取り返しのつかないほどに重要な事件。家族の崩壊を眼前につきつけられた二人が、お互い、会えない状況にあったことはとても納得できる。その事件、会えない理由は、柾人と、木実それぞれ違ったもの。柾人のそれは、まさしく眼前に見た事件、そして自分が関わったそれから遠ざかるため。そして木実のそれは、そのことに端を発し、大好きな人を喪失してしまう恐怖。深く読みすぎかもしれないが、木実は思春期に、今一度家族である兄、柾人をも失ったことが大きいのだと思う。作品では木実のその理由が、木実の失踪につながる。しかし、だとしたら冒頭に述べたとおり、もっと木実の物語を描くべきではなかったろうか。伏線もきちんと張られ、最終的にはまとまり解決されている。しかし、もっと、もっと木実を書くことで、木実は解放されたのではないか。
どうも、書かれるべき作品の真のテーマより、三国屋の事件というエピソードにひきずられてしまったような気がしてならない。


静かに微笑み、全てを受け入れるばあちゃん。彼女の存在が、柾人と木実に新しい家族を再生させる。カクさんさえ引きずりこみ、。ぜひ、ばあちゃんをもっと、もっと書いてほしかった。そして、柾人にして妹、木実を彷彿させる里奈も。あたたかな人々を、もっと、もっと書いてほしかった。
いや、旭川の雄介さんも、草葉さんも魅力的なのだけれど。