センチメンタル・サバイバル

センチメンタル・サバイバル

センチメンタル・サバイバル

センチメンタル・サバイバル」平安寿子(2006)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、女性、恋愛、おしゃべり


これ、男性が読む本じゃないなぁ・・と正直、思った。まるっきり共感できないわけでないし、おもしろくないわけでもない。しかし、なんというか女性同士の覗いちゃいけない本音トークを覗き見してしまった気分。最後のほうは主人公の性に関係ない普遍的なひととしての生き方みたいなものでまとめてくれて終わったのでよかったのだけど、中盤に出てくるセクシャルな話題には、ちょっと赤面してしまった。いやきちんと読んでしまいました。はい、おっしゃるとおり。男性はファンタジー(幻想)を抱いているのです。く、く、くそう。すっかり読まれてるじゃないか。


長編がうまいなぁと思わせる平安寿子の、21話からなる短編連作集なのか、はたまた21章からなる長編なのか。物語というより、フリーターである女性主人公が、同居する独身でパワフルで肉感的な母親の妹である叔母と、あるいはバイト先の店長や、仲間と繰り広げる会話のなかに、女性の生き方に対する作家の考え、思いをつれづれに綴ったエッセイといったほうがぴったりくるような作品。物語自体も、ほんのり少ぉしづつ進むのだが、期待した山あり谷ありの、この作家得意のドタバタした物語ではない。決して悪い「物語」ではないのだが、物語を期待するとちょっと外される。ドタバタは、パワフルな叔母の台詞と行動に任されたといったところか。
叔母や、友人と繰り広げる日常の生活を通じ、少しづつ、少しだけ成長する主人公。少しだけしか変わらない、変われないのも、この作品では悪くない。強く主張を繰り広げる叔母の意見に振り回されそうになりながら、それでも自分の生き方を最後には見付けられた。


〜夢も目標もない。でも変化に合わせてやっていこうと思う。見た目は現状維持だけれど、わたしとしてはチャレンジのつもりなんです。〜


甘い、弱い主張なのかもしれない。でも、こういう生き方もありかなと思わせてくれる、それだけのうまさと説得力のある作品。ただ、物語としては活かしきれないキャラクターや、エピソードもあり、決してオススメとは言いがたい。いや、男のぼくがオススメする作品ではない。


河田るか、24歳。未曾有の就職難だというのに危機感なく、「なんとかなるさ」といい加減だったバチが当たり、就職しそびれた。とりあえずみつけた画材店ディマンシュのバイトは、居心地のよさもあり三年目に突入。ボーナスなし、社会保障なし、月収手取り15万円は苦しい。でも、24歳でフリーターは珍しくないし、お金よりやっていて楽しい(というか楽)ことのほうが大事。両親はお金の問題より、そういう生ぬるい性格を不安がる。
そんなるかであったが、自宅娘であればこそできた経済観念の乏しい生活に危機がやってきた。祖父が脳梗塞で半身不随になったことをきっかけに、会社を退職して技術書の翻訳などをしていた父親が、ある日、出雲の実家の蕎麦屋を継ぐことを決めた。母親も、父親と一緒に出雲に移ることを決める。るかにすれば、出雲について行き蕎麦屋を手伝うのは不本意だ。しかし両親は東京の家を人に貸し、家賃収入を得ると言っている。東京でひとり暮らしするには自分でアパートを借りなければいけないが、そんなお金もない。
そこに登場したのが母の妹である龍子叔母。もうすぐ50歳になる龍子叔母はいまだ独身の社員研修のプロ、いわゆるバリバリのキャリアウーマン。65kgでダイエットを口にする身体を、豊満で肉感的、女の身体は太っていればこそ、エロいと言い放つ。パワフルでいろいろなことに手を出すものの、あきっぽい。そんな龍子叔母が今回の件を聞き、一人暮らしのマンションで、るかと同居生活をしてくれるといってくれた。ただし、食事や部屋の掃除が条件。
そんなふたりの生活でるかと龍子叔母の交わす会話(といっても主に龍子叔母の主張であるが)、あるいは、るかのバイト先ディマンシュでの、ちょっと芸術家くずれの頼りなさげな店長古木、同じバイト仲間、高校中退でいつかどっかの店の店長になると決意する、ちょっとパワフルな民ちゃん、いつのまにかデイマンシュの常連客になっていたふわふわした美人な女性ワビコさん、るかが心引かれてしまう、民ちゃんの昔なじみ、年齢の割にこどもっぽい左官屋のノンタといった面々とのおしゃべりで物語は進む。


この作品で語られる内容は「エッチという言葉は禁句」とか、「アベサダ」「更年期」「二の腕」「ダイエット」と、まさに女性同士ならではの話題。正直、男性が読むと、とても気恥ずかしい。そんな男心を見透かしたような、冒頭記した「男性はファンタジー(幻想)を抱いている」という指摘。いやはや、やられます。これらの話題を、おもにパワフルであきっぽい龍子叔母が語るのだが、まさしく普通のおしゃべりを聞いているよう。そしてまた、わかりやすく設定された登場人物たち。それぞれがステレオタイプなのかもしれないが、そのおかげもあいまり、会話中心の物語がとてもわかりやすく読みやすい。最近読んだ、同じように会話(モノローグ)中心の物語であった「黒と茶の幻想」(恩田陸)に比べて、会話の内容が、それぞれのはっきりしたキャラクターと合っており違和感なく読むことができた。


「物語」を楽しんだり、何かを作品から得たり、そういうことは本作品に期待するのは間違っている。気軽なエッセイを読むような、そんな気分で楽しむ作品。ぼくはオススメはしませんが(笑)


追記:そういえば、さりげなくるかは料理をしちゃったりするんだけど、これが妙においしそう。にんにくを直接ドレッシングに使うのでなく、器にこすりつけるなんて描写は小洒落てい、なおかつおいしそう!。


蛇足:うちの家人は大受けだった。うんうん、わかるわかる。女性はもっと自由でいいのよね、って。自由すぎても困るのですが。「ガール」(奥田英朗)[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/36747828.html ]に同感した女性は、もしかしたらこの作品にも頷くのかもしれない。気に入るかどうかは別として