義八郎商店街

義八郎商店街

義八郎商店街

「義八郎商店街」東直己(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、ファンタジー、エブリデイマジック

図書館の新刊リストで東直己(あづまなおみ)の名前を見た。その瞬間、インターネットで予約の操作をしていた。

札幌を舞台にした、名無しの探偵そして探偵畝原のふたつのシリーズで、日本の正統派ハードボイルドの作家として敬愛してやまない氏の最新作。
え?本書を手に取った瞬間、違和感。これ、ほんとにあの東直己の作品?ハードボイルドを期待していた書物の表紙は、カラフルでちょっとグロテスクな老人たちの走る姿。これは、ないよぉ・・。
読み始めても、困った。期待していたハードボイルドではない。いわゆるエブリデイマジックといわれる、日常にほんの少し不思議が紛れ込むファンタジーの一形式。なぜ、東直己が、。

舞台は東京下町、桜台三丁目。なんの変哲もない名前の街であるが、以前は義八郎町という名前であった。その名を残す「義八郎商店街」が舞台。この街は、バブルの頃の地上げの攻勢を、年老いた商店街の店主たちが自らの身体を鍛え、警察の手を借りることなくしのいだ、武闘派の商店街として、裏の世界では知られていた。その商店街のすぐ裏手にある小さな公園に、一年ほど前からホームレスが住み着いていた。ゴミ捨て場を、きれいに掃除し、段ボールを集めてお金に代え、二日に一度はきちんとお金を払い銭湯のしまい湯をもらいこざっぱりしている。街の人々はいつしか彼を、親しみを込め義八郎と呼んでいた。商店街を舞台に起こる色々な現代という事件を、義八郎というストレンジャー(異人)が、人知れず解決していく連作集。まさしくエブリデイマジック。

しかし、手裏剣、マーシャルアーツ、剣道、柔道と様々な武術を身につけた老人たちが居並ぶ商店街というのも、覗いてみたいような、みたくないような。

東直己という先入観がなければ、どんな感想がもてたのだろう。そう思えることが、ぼくにとっては残念な作品。最後まで読んで、初めて、あ、もしかしたら、この作品はとても良質なファンタジーだったのではなかったのか、そう思えた。そして、ちょっともの哀しく・・

テーマは、ありがちな古きよき時代、街並み、人情がなくなっていくことへのオマージュ。
しかし、作品の最後、落とし方は、ある意味、見事。やられた。いや、古臭い、ありがちな形ではあるのだが・・。

星四つは、見誤っていたかも、という部分を含め、多少甘め。
東直己を知らない人にぜひ読んでほしい。そして、感想を教えてほしい。

しかし、やはりこの装丁はないと思う。