ラストドリーム

ラストドリーム

ラストドリーム

「ラストドリーム」志水辰夫(2004)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、叙情小説

ハードボイルドの騎手、シミタツ、こと志水辰夫の本。 尤も、最近はハードボイルドというより、叙情小説の作家と云う感じがする。

冒険小説の藤田宜永、クライムのベルの新堂冬樹、どうして、こうみんな、そこそこ中堅になると、そっちのほうの小説を書きたがるのかな・・文芸方面というか。それはそれで、いい作品とか出すから良いのだけど、少し寂しい。

で、本作。半分ほど読んでも、話しがどこへ行くのか見えない。追われるように会社をやめ、北海道へたどり着く主人公の回想と、現代を織り交ぜ話しが進む。途中までどこに行くかまるっきり見えない。これはもしかしたらとてもよい作品では、と期待して読んでいた。
見事に裏切られた。広げすぎたね、シミタツ

男は、列車の中で寝込んだ挙句、シートから落ちたらしい。見知らぬ人に助けられた。自分は誰で、どうして、ここにいるのか。手持ちの荷物もなく、現金しか持ち合わせていない。列車の中で知り合った人に導かれ、山中のロッジで、一夜を過ごす。そこは、バブルの頃、二束三文の土地を、あたかも価値があるように売られていた別荘地の跡地であった。
物語は、主人公長渕の過去の回想と現在を織り交ぜ、進められる。長淵は、ある食品会社に勤めていた。造り酒屋の次男で、野心もなく、適度に仕事をしつつ、会社のマドンナをいとめた彼は、社長の命でタイで海老の養殖に関わることになった。なんのノウハウもなく、突然、タイに単身送られ、苦労を重ねることに。まさに高度経済成長時代の物語。そして、現在。愛する妻を失い、何にも情熱を見出せることなく、日々を過ごす彼。北海道で知り合った、秋庭や宍倉という人々との交流を描く。

散りばめすぎたエピソードが、収拾がつかなくなったという感じ。喪った妻を回想すること。取り残された別荘地にあるマイナスイオンを噴きだす洞窟。あと一年で時効を迎えるはずの殺人事件の、突然の発覚。金鉱の発見。そうしたエピソードは集約されることなく、終わってしまった。最後はとってつけたような感も。

タイトルも、作品の標題がいつも素晴らしいと評判だったシミタツにしては平凡なタイトルだったし、残念ながら作品にあっていたとも思えない。毎日新聞の日曜版に連載されていたそうだが、サービスしすぎてまとまらなくなってしまったというところか。期待していたシミタツだけに、残念。