ささらさや

ささらさや

ささらさや

「ささらさや」加納朋子(2001)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ファンタジー、ミステリー、短編連作、幽霊 、エブリデイマジック

blogで、勧められた作家、作品。いわゆる幽霊モノ。幽霊モノとは、死んだ人間が幽霊となってしまい、ふつうに生きている人間に絡むという意味。ホラー(恐怖小説)ということではない。
どうもこの形、小説のいちジャンル、いち定型として、根付いた感がある。もともとは「幽霊が生きた人間に絡むこと」それ自体が、ひとつの話であったと思っていたのだが、「幽霊が生きた人間にどう絡むか」が作品として認知されてきたようだ。日常の生活に起こる不思議と考えれば、あ、最近読んだ東直己の「義八郎商店街」と同じく、これもエブリデイマジックの一種だなと気づく。ここでファンタジー論を語れば、長くなるので割愛。
以上、いい加減な文芸論。

物語は、生まれて間もない赤ん坊をかかえる新婚夫婦の夫が、交通事故であっけなく亡くなるところからはじまる。残された妻さやは、叔母が遺してくれた、佐々良(ささら)という小さなひなびた街の小さな一軒家に越してきた。ほんわりと、頼りげない妻を見守るために、事件のたびに、いろいろな人にのりうつり、妻を守る夫の幽霊という短編連作。本来、ファンタジーだけのはずなのに、ミステリーもくっついてきてしまうのは、妻の周りに、小さな悪意を持つ人々が現れるから。 夫の両親による赤ん坊の誘拐事件、引っ越し時の空き巣騒ぎなど。日常の小さな事件が起きると「ささらさや」という心地よい音ともに、夫が現れる。愛情を込めて「ばかっサヤ」と呼びながら・・。
小さな、古びた街に残された人情。おっせかいなばあさん三人組や、公園で知り合った、シングルマザーエリカと、その子ダイヤもいい。 あたたかな、気持ちでさらりと読める作品。
そして、夫は、サヤに気づかれることなく去っていく・・。胸がいっぱいになりそうな、温かなやさしい言葉を、サヤに語りかけながら。

今回のファンタジーのお約束ごとは、夫は、自分の幽霊の姿を見ることのできる人だけに、たった一回だけ乗り移れる。そして、乗り移られたあとは、そのことを忘れてしまう。日常生活に絡んだファンタジー、いわゆるロウ・ファンタジーでは、このお約束ごとで、いかに作品にリアリティー(本物らしさ)を与えられるかで、読み手をひきつけられるかが決まる。今回のお約束ごとは、及第。 タイトルになっている「ささらさや」という柔らかなやさしい、心地よい音の響きが、本作品のポイント。佐々良という街と、さやという名前をひっかけただけなのだが、なんだかとても心地よい。特別に意味をもたせなかったことも、いい。

ただ、僕の評価は星3つ。こういう作品は、決して悪くないとは思うのだが、これは僕という読み手の嗜好の問題。 大きな事件も起きず、日常が、ただ淡々と流れていくというタイプの作品を、2005年5月現在の僕は評価を高くつけることはしない。たとえれば、ミニシアター系の映画と、ハリウッドの大作映画を2つ並べて、同じように評価できないのと同じ。だからこの作品については星の評価は、あまり関係ないと思ってほしい。

ひとつ残念だったのは、物語の最後に出てくる喫茶店「ささら」のマスター。もっと、書いていて欲しかった。大事なキャラクターだろ。

サヤって、おとなしげだけど、実は結構強情。こぉいう女性が一番ヤッカイかも、しれない。

同じ、幽霊モノ、「ボーナス・トラック」越谷 オサムhttp://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/1890794.html もオススメ。是非お読みください。

蛇足:この作品、コミック化もされてるようです。幻冬社、画:碧也 ぴんく。