終末の海

終末の海 Mysterious Ark

終末の海 Mysterious Ark

「終末の海 Mysterious Ark」片理 誠(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、小説、近未来、SF、ミステリー、ホラー、ジュブナイル、冒険、第5回日本SF新人賞佳作



ジュブナイルというジャンル、少年少女小説とでもいうべきだろうか、この作品を読んで感じたのは、それだ。作者も、出版社もどうやらそれを意識しないのか(したくない?)、装丁、売り方は一般書籍として出版されているが、これは児童文学でしょ?作品のジャンル分けで、評価が変えるつもりはないが、ちょっともったいない。「十五少年漂流記」とか「海底二万マイル」とか、そぉいう、少年たちの心をワクワク、ドキドキさせるような小説。

核戦争による世界の崩壊の後、主人公圭太は、父や仲間とともに大型漁船で日本を脱出。月に届く施設がある、海上基地フロート・ナインを目指していたが、座礁してしまう。そんな僕らの前に現れた巨大船。しかし、その船は、僕たちの助けを求める声を無視して去っていき、また、現れる。意を決した大人たちはその船を調査するため出て行くが、そのまま誰も帰ってこなかった。その後も巨大船は、定期的に僕たちの前に現れ、去っていく。ある日、僕らは覚悟を決め、漁船を乗り捨て巨大船に乗り移ることにした。
嵐の海、なんとか乗船したその船は、無人の豪華客船だった。モーターは無惨にも壊され、コンピュータも動いていない。この船で何が起こったのか。
そして、仲間が、一人、また一人と姿を消していく・・。

主たる登場人物は、船の機関士を父に持ち、子どもの頃から父の横で機械を見ていた主人公、メカ好きな少年圭太、12歳。弟の夕矢、8歳。リーダー役をつとめる18歳の英人。その妹で、圭太がほのかに思いを寄せる美阿。英人と同じ18歳の、ちょっと乱暴で身勝手な康之。これらの少年少女たちを中心とした、冒険小説。

お世辞にも、「巧い」作品ではない。評価も、決して高くはつけない。しかし、おもしろく、読めた。これが、ジュブナイルであるなら及第。
しかし一般小説であるなら、もう少し、深く突っ込んで欲しかったという部分は多々ある。物語自体も、厳しく言えば、どこかで読んだことのあるようなストーリー。あまり新奇性は感じなかった。登場人物たちも類型的ならば、それぞれの絡み具合も同様。全体としてこじんまりとまとまっている。
でも、破綻なく、楽しく読めた。そういう作品。

ラストは、個人的にはもっとハッピーエンドがよかった。

蛇足:「週末の海」という言葉にひっかけたようなケレンがあるようだと、もっと良かったのでは。あ、次に読んでいる「おしゃべり怪談」藤野千夜にひきずられている・・。