リスクテイカー

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リスクテイカー

「リスクテイカー」川端裕人(1999)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、金融、ヘッジファンド、マネー、青春小説

大好きな作家、川端裕人のデビュー2作目の小説。大好きと言っていながら、今まで未読。

物語は、コロンビア大学ビジネススクールの卒業パーティーから始まる。邦銀を辞め渡米してきたぼく、ケンジ、ストリートロッカーで、実はユダヤの資産家一族の息子ジェイミーの二人はビジネススクールーの問題児。学友の前で卒業後、独立したヘッジファンドを立ち上げると宣言した。もう一人の仲間は、ヤン。チャイニーズアメリカンの天才物理学者。11次元の空間をイメージでき、金融の世界を物理学の理論で解析する。そんなぼくらのファンドに、伝説のファンドマネージャー、ルイスが出資してくれた。4億ドル!しかし、それはぼくらの金融戦争への幕開けだった。ルイスの思惑の下、ヤンの開発した金融予測ソフトウェアを駆使し、主人公ケン、ジェイミーが世界中の為替市場をかきまわす。ルイスの最終的な目的は何か・・。

時代は、1996年から1999年の三年間。当時の事実を踏まえ(おそらく)、書かれた作品。作品の中で、金融商品や理論については懇切丁寧に説明してくれている。しかし残念ながら基本が文系のためか、僕には今ひとつきちんと理解できたとは言えない。とはいえ、この中で語られることは「嘘」ではないと信じるに足る。川端氏の作品は、いつもきっちりした取材と理解に裏打ちされており、僕はその執筆態度に常に好感を持つ。

ファンドマネージャーが動かしそして儲けるこの巨額なマネーとはいったい何なのか?本作のテーマは、金融小説にありがちな巨額な資金が動くことでおきる人間模様、物語ではない。マネーという実態不明確な概念へのアプローチである。この信用貨幣という、実体のともなわない「お金」とはいったい何なのだろう。そして、それはどうあるべきなのか?物語として楽しめた上で、色々考えさせられ、とても得した気分。押し付けられたような気がしないで、考えさせられる作品は、とても気持ちいい。
もちろん、物語も単体の作品として、魅力的な登場人物たちが生き生きと活躍していてとてもおもしろい。ラストは、とってつけたようにありがちだけど、それはそれでよかった。ほら、これは僕らの青春小説だから・・。

蛇足:ぼくの好きな作家、石田衣良にも同様な金融小説「波の上の魔術師」があるが、本書「リスクテーカー」に比べれば、残念ながら、かなり落ちてしまう。もし、よければ読み比べてほしい。