宇宙のみなしご

宇宙のみなしご

宇宙のみなしご

「宇宙のみなしご」森絵都(1994)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、文芸、児童文学

印刷業を営む両親が忙しく、中二の陽子とひとつ年下の弟リンはこどもの頃から仲のよい鍵っ子姉弟。ふたりでいろいろな、でも少し変わった遊びばかりしてきた。ある秋の夜、屋根の上を歩く猫の姿を見て思いついたのが、真夜中に他人の家の屋根にのぼること。もちろん、その家の人に見つかったら怒られる、第一なんでそんなことしているのか、自分でもうまく説明できない。でも、とても楽しい、ふたりの秘密。そこに陽子のクラスメイト七瀬とキオスクが参加することに・・。

ネットでの友人がとても褒めていたので、読んでみることに

とにかく、主人公の陽子が強い。ある意味傍若無人、わが道を行く。弟のリンも、そんな陽子にふりまわされることなく、きちんと自分をもっている。そんな強い二人の姉弟にに影響され、変わっていく陽子のクラスメイト七瀬とクラスのいじめられっこキオスク。すごくステキで、いい話。陽子の登校拒否の原因のひとつであった、突然学校を辞めてしまった担任のすみれちゃんも、すごくいい味出している。すみれちゃんの言ったという作品のタイトルともなった「宇宙のみなしご」、とってつけたような感がないワケでもないが、言いたいことはすごく分かる。共感を覚える。
秋から冬にかけて、夜の冷気がしんしんと、空気が澄んで、星がきらめくころのお話。屋根にのぼって、四人で毛布をかぶっているシーンは、なんだかとても懐かしい気分。この作品では、これが重要なイニシエーション(通過儀礼)。四人は、この出来事を通してそれぞれ一歩成長するのだろうが、それが少し寂しく思えてしまうのは、大人の感傷。

唯一、難を言えば、陽子やリンのような強さに憧れても、ああはなれないと思う読者も多いのでは・・。そこが、少しだけ気になる点。

蛇足:この作品を読んでいて思い出したのが、僕の大好きな児童文学「太陽の子-てだのふあ」灰谷健次郎の主人公ふうちゃん。全然作品の内容は違うけど、彼女もとても強い女の子だった。