[スローモーショーン


「スローモーショーン」佐藤多佳子(1993)☆☆★★★
※[913]、国内、児童文学、ヤングアダルト、現代、小説

ネットで、ちょっと話題になっていた佐藤多佳子氏を図書館の書架で見かけたので、借りた。

もともと児童文学は好きなのだが、この「ヤングアダルト」という分類の小説は、どうも苦手。今の若者の苦悩や生活を描くというジャンルなのだが、なんか甘えてないか、と思ってしまう。サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」あたりかららしいのだが、あれもダメだった。いや、わからないワケじゃないのだが、僕はやはり若者には前向きに頑張って欲しい。

柿本千佐は高校一年、水泳部所属。水泳部の練習が終わったあと、午後5時にディスコに入店、午後7時には店を出る。悪い子でもなければ、いい子でもない。いや、少し悪い子かも。ニイちゃんは四年前、傷害事件で退学になった。ニイちゃんはバイクで白バイに追われ、トラックにぶつかり、瀕死の重傷を負った。左脚に少し、びっこが残っている。ニイちゃんは、いまは何もしなでいでゴロゴロしている、なまじキレイな顔のくせに、汚い格好をしているのは最悪だ。昔のニイちゃんは、とてももてた、タラシだった。いや、今だって・・。ニイちゃんは、母さんの違う兄。ニイちゃんの母さんは、子育てに疲れ家を出た女性。いまや売れっ子のデザイナーの奥さんとして、パタンナーとして活躍している。父さんは、カタブツ、クソマジメの小学校教師。
そんな千佐と、ニイちゃんと、千佐のクラスメイト及川周子の物語。
及川周子は千佐のクラスメイト、そして水泳部でも一緒。でも、周子と話したことのある奴はほとんどいない。周子は、とても変人。背は小さく、血色は悪く、そして無気力なほど、ぼーっとした動き。周子の父親は、殺人を犯し、懲役中だという噂が流れている。でも、ホントのことはだれも知らない。ニイちゃんと周子、出会いはふとしたきっかけだ。まわりから外れた二人が出会うのは、必然だったのかもしれない。
ふつうの人の流れとは、別なふたりだけのゆっくりした流れ。それは、傷を舐めあうふたりだけの世界。
そんな、世界が壊れた。そのとき、ニイちゃんは一歩進むことを決めた。

何を、どうまとめたらいいのかわからないほど、何事もない。確かに、登校拒否、というより不登校、同棲といった部分はある。しかし、いわゆるショッキングな描写があるわけでない。ただ、今の閉塞感をどうにかしたい。千佐の思いが、ニイちゃんと周子のふたりの姿を追いかけていくことで描かれる。
でも、千佐は自分から何かしようとしたのだろうか?

本書だけで、佐藤多佳子を評してしまうのはフェアでないだろう。ただ他の作品も、この作風なら、僕には合わない

追加:「ヤングアダルト」は正確には13歳くらいからの読者層を意識した作品、ジャンル。もとは、アメリカで使われ始めた。ただ、実際には、本文に触れたような作品が多いようだ。