そのケータイはXX(エクスクロス)で 

そのケータイはXX(エクスクロス)で

そのケータイはXX(エクスクロス)で

「そのケータイはXXで」上甲宣之(2003)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、ホラー、B級、伝奇、風習、このミス大賞

大学の友人である、しよりと愛子は人里離れた山中の鄙びた温泉地へ旅行にでた。行き着いた先は「阿鹿里温泉」。
愛子と温泉で別れ、先に宿に戻ったしよりは、宿の部屋に置き忘れられ、鳴り出した古びたケータイを手にした。モノノベと名乗る見知らぬ男が愛子に告げたのは、早く逃げないと片目、片腕、片脚を切り落とされ、生き神にされてしまうということ。逃げるしより、それを追う村人たち。頼りはモノノベのアドバイス。友人の愛子は、どこに。だれを信じたらいいの。そして、最後にしよりは・・。

本書は、第一回「このミス大賞」(宝島社主催「このミステリーがすごい!」大賞)で、各賞での受賞は逃したが、話題作として出版されたらしい。なるほど、確かにおもしろくはあった。441ページが一気に読めた。地の文が会話体のせいで、それが読みやすいからかもしれないが、息をもつかせぬジェット・コースター・ムービーのように、話しがテンポよく、次から次へと進んでいく。その意味では、とてもおもしろかった。

ただ「深み」がない。

架空の村「阿鹿里(あしかり)」を脚刈りに通じさせ、その村では片目、片腕、片脚を切り落とされた女性を生き神とする風習がある。ミステリーとしてとても魅力的な設定を作ったにもかかわらず、生かし切れていない。この設定が、うまい、だけに惜しい。結局、B級ホラー映画のノリで終わってしまった。作者の狙いがそこであったとしても、だ。
ケータイ(携帯電話)という、最新機器を小道具に持ってきたのが、「今」らしいのだが。しかし、2003年の今は、2005の現在には、少し古くさい。とくにケータイの機能に拠ったこの作品は、現在のように、新たな機能がどんどん付加されていく状況では、どんどん古くさい話しになってしまう気がする。早めに読め、だな。
気になるのは他にも、山奥の鄙びた街の割にはケータイがよく繋がる。あるいは、主人公がケータイマニアでもないのにケータイの機能を知りすぎ。物語の骨組みもありがち、ラストありがち、なのにカタルシスを得られない。肝心の謎も明かされていない。タイトルも意味がありそうで、実はあまりない。とにかく、何かが足りないが多い。ま、たのしい読み物というところ。

蛇足:「このミス大賞」では、やはり第一回優秀賞の「沈むさかな」式田ティエンが、一番好きだな。「君は・・・」という二人称の書き方が印象的。