黄色い目の魚

黄色い目の魚

黄色い目の魚

「黄色い目の魚」佐藤多佳子(2002)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、青春、絵、サッカー、頑な、YA(ヤングアダルト) 、児童文学

ネットの本読み仲間ちえこあさんのオススメ。同じ作家の「スローモーション」http://d.hatena.ne.jp/snowkids99/20050530/1117460833がちょっと納得できなかったので、少し用心しながら読んだ。
読後感。よかった。うん、すごくよかった。正統派の青春小説。
切なくて、苦しくて、でも、道は拓かれる、だ。

表題作含む8編からなる連作短編集。本書の第二話にあたる、表題作でもある「黄色い目の魚」は、本書の出版される10年前に独立した作品として発表された。それから10年、表題作を核として書かれた8編の短編。どれも、いい。

孤高に、不器用に、まっすぐ生きる少女、村田みのり。まっすぐ生きるが故に、家族とも、級友ともぶつかりあってしまう。そんな彼女を理解し、自由にさせてくれるのは、母親の弟である、マンガ家でイラストレーターである通(とおる)ちゃん。通ちゃんは、みのりが小学校1年生の時に書いた、黄色い目つきの悪い魚の絵をアレンジしたキャラクターでへんてこなマンガを描いた。そのキャラクターはキャラクター商品が作られるほどのヒットをした。でも、通ちゃんはクーラーの効かない、海が少しだけ見えるマンションをアトリエにしてる。そこは、みのりにとって、家でも、学校でもなく唯一くつろげるところ。一番好きだったのは、通ちゃんの部屋の、からっぽの銀色のステンレスのバスタブ。折りたたみのふたを少しだけ開けて、もぐりこむことだった。

幼少の頃、両親が離婚して、母親に妹ともに引き取られた木島。10歳の時に、物心ついてから初めて会った父テッセイは、出会った夜に木島にデッサンというものを教えてくれた。それ以来会ってなかったが、肝臓を壊して死んだと聞いた。木島に油絵の道具を遺して。

クラスの落書き男、木島が、また教科書に、ノートの片隅にせっせと落書きを書いている。鉛筆のラフなスケッチがうまい。見とれるほどうまい。描かれた人の持ついやぁな感じをうまく描いてる。私は絵が描けない、だけど、絵を見ることだけはすっげぇ好きなんだ。

うまく描けない。なぜ、俺の描く絵は、いやぁな女になってしまうのか。俺の目に見えるとおり、俺は描けないのか?

不器用なふたりが出会って、不器用ななりに成長していく姿。とても真摯に生きている。安易で手軽な傾向の作品が多い中、このまじめさはとても好感がもてた。
そのため、木島が、みのりを好きということを意識しつつも、ほかの女性と簡単に身体を重ねてしまう描写が残念。たぶん、この作品には必要なかった。

「俺。ずっと描きたいから、村田のこと」
「できたら、一生描きたい。おばさんになって、ばあさんになるまで描きたい」
「いい?」
「描いてもいいい?」
「じいさんになっても、いい絵描くんだよ」

ベタベタしてないのがいい。

舞台は、僕の住む、鎌倉、逗子、藤沢の辺り。でもそれほど、舞台は重要ではなかった。ちょっとだけ知っている地名、場所を思い浮かべてニヤニヤしたけど。

あと、もひとつ残念なのは、表題作でみのりに成長を与えてくれた美和子が、そして高校になって唯一の女ともだち須貝が、すっかりどこかにいってしまったこと。本書がみのりと木島のふたりの物語とはいえ、正直言って魅力的なキャラクターになりえたふたりが消えてしまったのは、惜しい。