ハミザベス

ハミザベス

ハミザベス

「ハミザベス」栗田有起(2002)☆☆☆★★
※[913]、国内、小説、現代、家族、文芸、第26回すばる新人賞

ネットの本読み人仲間であるちえこあさんオススメの一冊。http://d.hatena.ne.jp/chiekoa/20050429
図書館の書架でたまたま見かけたので借りてみた。
第26回すばる新人賞受賞のデビュー作。表題作「ハミザベス」「豆姉妹」の二つの短編(中編)からなる。

表題作「ハミザベス」、主人公中川まちるは母親と二人暮し。はたちの誕生日を目前にしたある日、幼い頃に死んだと聞かされた父よりマンションを相続することになった。手続きに来た女性花野あかつきは、手タレ(手のタレント)をする女性で、はじめは30近い女性と思っていたが、実はまちると同じ年。15の頃から5年間父と暮らしてきたという。父と彼女の関係は、恋人のそれでなく、師匠と弟子の関係であったという。事実、ふたりは遠い親戚であり、お互い特殊な体質であった。
ハミザベスはあかつきの飼っていたハムスター。あかつきが飼えなくなったのでまひるに貰って欲しいと託された。ハミザベスという名前はまひるがたまたま観た映画の主人公エリザベスとハムスターをくっつけた名前。
おさななじみの彰は、家族ぐるみでつきあう美容院につとめる若者。一時つきあっていたこともあるが、今は本当の意味の友人。
そんな人々とまひるの日々を描く小説。まちるが、今まではこうとしなかったスカートを探しに行く最後は、ちょっといい。

ふたりでひとりのような生活をしていた母娘の生活に、まるで水面に投げかけられた小石のように波紋は広がる。父の遺産を継ぐことでまちるは母とふたりだけの世界、共生の世界から自立していく。そして母親も、。そんな小説。なんか浮世離れしている。
しかし、幾らなんでも畳一畳はないんじゃないか?

「豆姉妹」評価としてはこちらのほうが、絶対上、おもしろい。「ハミザベス」に比べて、地に足がついた、本当にありそうという意味でリアリティーがある。もちろん作品としても完成度が高い。
七歳年上の姉永子と高校生の主人公森永末美は、双子のように似ている。ワードローブもふたりでひとつ。それぞれの個性なんて必要ない。高校を卒業すると同時に姉は家を出た。幼い頃離婚し、再婚した母とまま父、そしてその連れ子に族に気をきかせたのだ。双子のような姉について末美も一緒に家を出、ふたり暮らしをしていた。そんなある日、姉が肛門科の看護婦を辞めてSMの女王になると言った。仕事の内容は今やっていることとほとんど変わりなく、給料は三倍になるという。今まで私たち姉妹は木綿の服を着るような姉妹であったが、姉は仕事に合わせ黒い薔薇模様の小さな下着を、そして真っ赤な口紅、香水を身に纏うようになった。姉の匂いが変わった。
新学期がはじまったある日、末美は美容院に行き、思わずアフロにしてほしいと言ってしまった。アフロに特別な思い入れがあったわけでない。深夜までかかってやっとできたアフロは重く、歩きづらかった。帰宅したら、家には母の再婚相手の連れ子である、末美と同じ年齢の弟の良太が家出してきた。とも稼ぎの家族で、家事をおこなっていた良太は、なぜかおかま言葉で、家事一切を行うことに。そんな奇妙な3人の生活が始まる。

こちらの小説も、ふたりでひとりであった姉との共生から自立していく主人公の姿を描く。アフロの髪型について、校長先生と話をし、全校生徒の前でスピーチを行うくだりは、とても好感がもてた。良太の家出の理由も、思春期の青年にありがちな理由。まちがった方向にいかないで、義理の姉の家に転がり込み、もくもくと家事をする姿も好感がもてた。

栗田有起、「豆姉妹」のような作品を今後も期待したい。