サジュエと魔法の本-上-赤の章

サジュエと魔法の本 上巻 赤の章

サジュエと魔法の本 上巻 赤の章

サジュエと魔法の本-上-赤の章」伊藤英彦(2004)☆☆☆☆★
※[913]、国内、小説、ファンタジー、魔法、児童文学、冒険

所属しているネットの集まりでちょっと話題になっていた本。上巻だけで評価は決まらないが、なかなか読める。おもしろい。
「もう子どもじゃないけれど、まだオトナでもない、君たちがそんな年ごろになったら読んで欲しいと考えながら、お父さんはこの話を書きました」と作者が、本文直前の見返しに書くが、まさしく、その年ごろに読んで欲しい本。

サジュエは、「大賢者ルアンティア」とたたえられらた魔道師のおじいさんと、やはり優秀な魔道師の両親をもつ12歳の少年。勉強や、運動では優れた優等生なのに、魔法は苦手。でも、そのことに劣等感を抱くこともない。大きくなったら、何か、別な、自分に合う職業に就けばいいと考えている。この夏休みはおじいさんの家で過ごすことにした。訪れたのはサジュエの住む都会の街と違い、大自然が広がるキアナンという村。おじいさんの家で、サジュエは魔法の本「朱(あか)の書」と偶然出会うことになった。
この世には四神経と呼ばれる四冊一組の魔法の本がある。「朱の書」「蒼(あお)の書」「白の書」「玄(くろ)の書」。それぞれが強力な魔法の力を持ち、その本を手中におさめればこの世を支配することも可能である。ちょうど30年前、「玄の書」を手に入れた邪道師バオファンは、この本の力を借り世界を征服しようとした。しかし、他の三冊の本を持つ魔道師たちが力を合わせこれを追い払った。それ以来、平和な時代が続いている。これらの魔法の本も、悪用されることないように、それぞれ優秀な魔道師たちの手によって大切に保管されていた。
一方、邪道師バオファンが30年ぶりに復活した、四冊の本をもとめて、活動を開始したのだ。そして、自らの持つ「玄の書」に加え、「蒼の書」を手に入れ、この世界の征服を宣言した。
「朱の書」を手に入れたことから、この魔法の戦いにまきこまれたサジュエの旅が始まる。祖先が四冊の魔法の本を作った、国際魔道師機構の捜査官に追われる盗み屋であり、魔具工であるルイジと、その相棒リンダを仲間にして・・。

「向日性の文学」と児童文学が呼ばれた時代は、もはや遠い。心に傷を負ったり、劣等感を抱えたり、そんなことを克服していくことがひとつの評価としてきた児童文学において、久々に勧善懲悪な、向日性な物語が出てきた。わかりやすく、読みやすく、わくわくどきどきする。そんな魔法の冒険小説。物語の途中に出会い、サジュエが兄貴と慕うルイジや、リンダその他登場人物が生き生きとしている。
正義の味方は、みな正義のために、悪者はとことん悪者という、単純な物語であるが、過不足ない描写で「物語」を楽しませてくれる。

ひねてみたり、妬んでみたり、他の人の足をひっぱたり、それはそれで物語に深みを増すのだろうけれど、たまにはこんな、気持ちの良い人々ばかりの物語もいい。

下巻が楽しみ。