終着駅

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終着駅

「終着駅」白川道(2004)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、ハードボイルド、純愛、八木重吉

本書を手にとって、第一印象。う、厚い、500ページ余。読み終わってみれば、読みやすい文体と、予定調和のおもしろさ、あっという間、半日で読了。白川道(とおる)らしい一冊。

精鋭5人の部下を持ち、暴力団事務所を構える岡部武。若い頃、働いていた飲み屋でヤクザをいさめたことを、現在の将星会会長掘込に認められ、ヤクザの道に入った。命知らずの数々の武勲を持ち、ついたあだ名は死神。しかし、それは生きる目的さえ持たず、ヤクザの道に入ったが故の勲章。欲望と権力の渦巻くヤクザ社会の中で、透明な生き方を貫く。そんな彼が、自宅近くで、盲目の少女と出会うことから人生を変えていく物語。
少女の名は青野かほる。少女といっても、26歳の女性。幼い頃、ビルの爆発事件で両親を亡くし、自らも視力を失った。両親の遺した遺産を基に、岡部の住むマンションの近くに、喫茶店を営む。かほるは、岡部が若い起こしたオートバイ事故で亡くした恋人の真澄に似た面影を持っていた。かほるとの交流により、徐々に生きる情熱を持ち始める岡部。岡部とかほるの年齢を超えたじっれたいほどの純愛が始まる。
一方、岡部の所属する暴力団将星会で事件が起きる。組の有力幹部が襲撃に遭い、殺された。思いとは別に、権力抗争の渦に巻き込まれる岡部。
そして、事件が解決した岡部に待っていたものは・・。

くさい、とてもくさい。今時、こんなの流行らないと、思われる方には向かない一冊。昔の、東映映画。高倉健「冬の華」あたりの匂い。
たしかに、50歳の男性と26歳の女性、それも描写が少女というのにふさわしい女性との純愛なんて、いまどきありえない。しかし、それがいいのだ。昨今のややもすればすぐ身体を重ねる描写が当たり前の中で、なんとこの作品の中でかわされるのは口づけひとつだけ。そんな不器用な純愛は、おじさんの心をくすぐるのだろうな。
でも、僕はくすぐられなかった。純愛がテーマな作品であるが、実はヤクザ世界で透明な生き方を貫く岡部の姿がいい。まさしくハードボイルド。個人的な意見では、純愛はいらない。暴力団のなかで、頑なに生き方を貫き通す岡部の姿を描くだけのほうが、もっとぐっときたと思う。誰も賛同してもらえない意見だと思うが、。

個人的には買わない、かほるとの純愛だが、期もせず僕の大好きな八木重吉の詩がとりあげられて、とても嬉しかった。いいんだよ、八木重吉は、。

無駄な性描写、暴力シーンのない、ハードボイルド。そぉいう小説が好きな人にはオススメ。加納諒一、志水辰夫東直己あたりが好きな人にはぴったりか。もちろん白川氏の「天国の階段」を評価しない、白川氏ファンにはオススメの一冊。

蛇足:立原あゆみのマンガで「本気!(マジ)」というヤクザマンガがある。50巻に及ぶ長編。小さな街の人々の、ささやかなしあわせを守りたい、そんな透明な祈りにも似た想いを胸に生きていくヤクザの物語。現実は、そんな格好いいことばかりじゃ済まないのだろうが、とても好きな作品。この作品を読んでそれを思い出した。むかし喫茶店(いま流行のマンガ喫茶ではない!)で、ランチと数杯のコーヒーのお代わりだけで数日で全巻読みきったことを懐かしく思う。迷惑だったろうなぁ・・。