トラウマ・プレート

トラウマ・プレート (Modern&Classic)

トラウマ・プレート (Modern&Classic)

「トラウマ・プレート」アダム・ジョンソン 金原瑞人/大谷真弓訳 (2005)☆☆☆★★
※[933]、海外、英米文学、現代、小説

表題作「トラウマ・プレート」を含む9編の中・短編からなる一冊。
収録作:ティーン・スナイパー/みんなの裏庭/死の衛星カッシーニ/トラウマ・プレート/アカプルコの断崖の神さま/大酒飲みのベルリン/ガンの進行過程/カナダノート/八番目の海

トラウマ・プレートとは防弾チョッキの心臓を守る部分のチタン・プレートのこと。「学校に防弾チョッキ着てくなんてかっこ悪すぎ。でも、心臓を守ってるチタンのプレートをはずすとすごく不安になる−」帯の惹句に惹かれ、書架に並んでいるのを手に取った。小学生くらいの女の子が防弾チョッキを着てほほえむ姿、これはおそらくユーモアあふれる作品だと思った。揺れる幼い恋心と、無骨な防弾チョッキという対比。ちょっと、毛色の変わった小説だと想像した。結果、期待は無惨に砕かれた。表題作は、高校生の女の子と、その両親の話であった。ちょっと、ズルくない?

正直、評価不能
あとがき等見る限り、現代文学として、アメリカで高い評価を受けている新人作家のよう。確かに、読ませる。現代文学におなじみの、アイロニー、ほろ苦さ、閉塞感に漂う作品たち。しかし、正直、どのように評価していいか、その方法がわからない。

作品のひとつ、ふたつを抄訳する。
ティーン・スナイパー」主人公はバロアルト警察狙撃犯リーダーである15歳(!)のスナイパー。親友は爆弾処理ロボットのROMS。シューティングは的確だが、人間関係をうまく築けない少年の姿を描写する。そんな彼が、同僚の娘に恋をする。ストーカーと思われながら、ROMSのアドバイスにしたがって、再度コミュケートにチャレンジする。

「トラウマ・プレート」防弾チョッキのレンタル店を営む、主人公家族。近くに安く防弾チョッキを購入できる大型店が出来てからは、閑をもてあそぶ毎日。16歳の少女ルーシーは、店の宣伝をかね防弾チョッキを着て、日々を過ごす。先の見えない閉塞感。思春期の少女の揺れ動く気持ち。

「八番目の海」軽犯罪を犯した人々を更生するための、社会人再教育の講習会で19歳の俺は、ローレンという女性と知り合った。彼女は俺と同じ年齢の娘を持つ。一方、俺の父は、母と離婚したあと、母にくれてやった家を母親から賃貸している。そして、俺は母とその近くに住む。俺は、父と一緒にブロックを積み、塀を作る仕事をする。俺の目を通し描かれる淡々とした生活。終盤にやってくる閉塞感。そして、日々は流れていく。

繰り返すが、この作品を評価することは、ぼくには出来ない。だから、この作品を読んだ方は、ぜひ感想を教えて欲しい。おもしろくないわけではないのだ、たぶん。おそらく作品を解体して論文を書くことはできるだろう。そんな一冊