シネマ・フェスティバル

シネマ・フェスティバル

シネマ・フェスティバル

「シネマ・フェスティバル」永田俊也(2004)☆☆☆☆★
※[913]、国内、小説、現代、映画、青春

まったく、予想もしないところで傑作に出会った。期待もなく図書館の新刊リストから借りたら、当たり!。とにかく、万人にオススメできるおもしろさ。青春小説。厚すぎもなく、薄すぎもなく。誰でも楽しめる、そんな一冊。

主人公西沢和也は都立校の典型的サラリーマン教師、デモしか教師、のんぽり教師。ちょっと爽やかな笑顔で、現役の女子高校生に手を出したらダメだけど、2年後、卒業したらに期待するそんな若者。ひょんなことから、映研の顧問を命じられ、勢いで全国高校シネマ・フェスティバル入賞をめざすことになった。目指すは10位以内。グランプリなんて夢だ、身の丈に合わない目標は目標じゃない。昔の青春小説と違うのは、ちょと現実的なところ。でも、そこが妙にリアルでよい。
西沢には、寝たきりの父がいる。彼の父は蒲田の映画館の支配人をしていた。父の勤める映画館でのこどものころの楽しい思い出、映画は大衆の娯楽であった。そんな小さな映画館も、時代の波に押され閉館に、そして父は倒れた。
大学時代も映研に入っていたが、小品を一本撮ったきり。あとは、軽佻浮薄に大学生活を楽しんでいた。
しかし、そのたった一本の作品に、西沢の才能を認め、嫉妬する友人がいた。彼女の名前は中尾裕美子。いまや、29歳にして大日映画のプロデューサーに抜擢されていた。
いまどきいないだろうという、長いスカートの不良少女内藤恵美にひきずられるように映画製作は始まった。何事もやる気のなかった西沢の気持ちも燃えて来た。よし!映画を作るぞ!迫る締め切り、とある教師と確執。同性にしか好意を持てないことがばれ、白い目に晒されていた少年、家でひきこもっていた少年を仲間に加え、高校生にして文学賞を受賞した少女をなだめすかしてシナリオを書かせ、映画製作は進む。
クランク・アップ!その瞬間、西沢の腰に少年のナイフが突き立てられた・・・。
ラストは、余韻を残した終わり方。ありがちだが、それがいい。大作でも、文学でもない、おそらく大衆小説。肩の力を抜いて楽しむ。そんな作品。
そして、作者も絶対狙っているだろうが、映像化にぴったり。若い監督が、映像化しないかな。荒削りだけど、しなやかで、若さあふれるそんな作品に。
今関あきよしの、「アイコ16歳」(富田やすこ主演、古いぃぃ)あたりの出来を狙いたい。って、作品的な勢いのことね。

実は、ほかに二冊読了していた本があるのだが、とにかくこちらの感想をアップしたかった。それくらい個人的にははまった、ウケた。青春小説はいいよね。でも、☆はおまけして四つ。ごめんね。

重松清の推薦の言葉が、別紙の帯でなく、表紙に印刷されてしまったチープさが、ちょっと可哀想。

蛇足:映画製作に携わる作品ということで、マンガだけど細野不二彦あどりぶシネ倶楽部」を思い出してしまった。