笑う招き猫

笑う招き猫

笑う招き猫

「笑う招き猫」山本幸久(2004)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、漫才、女性漫才コンビ、芸能界、青春、第16回すばる新人賞

表紙のイラストで損している。作品の内容はもっとのほほんとしたのんびりムード。ふたりのヒロインも、こんなギスギスした感じでなく、もっととぼけた感じ。とくにずんぐりむっくりのアカコは、こう、もっとメルヘン。なんか、もったいない。

ネットの知人mamimixさんオススメの一冊ということで、読んでみた。いいね、これ。とてもいまどきの女の子とは思えない、貧乏生活、下積み生活。でも暗くない。すっごい明るいという訳でもなく、とても青春している。いまのお笑いブームにぴったりの作品。旬です、はい。今も、昔もお笑いを目指す若者は頑張っているのだ。若者といっても、この作品の主人公は27歳の女性。何が君たちを、お笑いに目指させるのか?
この本の作家、山本幸久氏は本作で第16回すばる新人賞を受賞。いい意味で新人賞らしく、小気味いい元気いっぱいという作品。さて、これから、どんな作家になっていくのか?楽しみでもあり、不安でもある。いい意味で、デビュー作を忘れないで欲しい。

ちびでずんぐりむっくりのアカコ、180cmもあるのっぽのデカ女ヒトミは、かけだし漫才コンビ。舞台に立った途端、あがってしまい、失敗してしまうような二人。ほんの小さな舞台なのに・・。そんな二人の、漫才を通した生活を書く。
作品は常識派のヒトミの視点を中心に描かれる。青山でOLをしていたヒトミは、大学時代からの友人アカコから突然申し出された、漫才コンビの結成を受けてしまう。日々をただ流されていく生活ではない、何かがアカコとの漫才にあると思った。
ヒトミとアカコの出会いがいい。大学時代、食堂に座るヒトミの傍にアカコがやってきて、ふんふん適当な歌を歌いながら食事をする。こういう女に子っているよね。なんか、適当にその場で歌を作りって、楽しそうに歌って過ごす。好きになるか、キライになるかどっちかだ。
二度目に出会ったのは、フリーマーケットフリーマーケットの人だかりの中心は、招き猫を売りながら、買ってくれた人に、歌を歌いながら似顔家を描いてあげるアカコ。どこからこんなに招き猫がと、思うくらいたくさんの招き猫。このオチはきちんと作品で語られる、ちょっと心温まるエピソード。
アカコに乗せられ招き猫を買い、似顔絵を描いてもらうヒトミ。アカコに即興歌をふられ、うまく返して、周囲の人にウケる。ちょっと嬉しいヒトミ。それが二人のコンビ結成のきっかけ。その後もは二人で、フリーマーケットで招き猫を売った。
二人の目標は、TVでコビを売るような芸人でなく、生涯舞台で漫才を演ること。目指すはカーネギーホール

登場人物が生き生きしてる。それだけで◎。とにかく脇役たちが生きている。マネージャーの巨体の永吉サトルはお笑いに対し、真摯で厳しい。二人の所属する桃餐プロの社長も、ヤクザのような風体だが、芸人を見極める眼を持っている。でも痔もちで、座ることもままならない。桃餐プロの往年のアイドル、ユキユメノのヌード写真集を計画している。ユキユメノ、引退した元アイドル、売れない芸人乙光児の妻であり、三歳の一人娘エリの母。エリ、泣かせるよ、この娘、三歳なのにしっかりしている、くうぅぅぅ。アカコの血の繋がらない祖母、頼子さん、老人とは思えないしゃっきり、ピンとした気持ちよさ。元自衛隊のがたいのいいメイキャップアーティスト不知火でなく白縫ジュン。それぞれが、きちんと生きている。
もちろん主人公の二人も、ね。アカコとともに漫才を始めたことで、普通のOLの生活から、貧乏まっしぐらのヒトミ。十年来の愛車、レッドバロンを駆り、電車賃を浮かす為、都内を駆けめぐる。あ、レッドバロンはおんぼろ自転車。一方、アカコは、実はお嬢様の、家事手伝い。日舞を習っていたり、とても普段の姿から想像できないプロフィール。適当な歌を歌う姿が最高。
物語も、若手芸人の不安や苦労、売れない芸人の悲哀、大人の事情。ユーモアとペーソスがあふれている。
とにかく楽しい小説。オススメ。
ただ、評価となると、おおまけのおまけで☆四つ。五段階評価って奴は難しい。客観的な主観評価を目指す、なので、大作に混じると評価は厳しくならざるを得ない。先日評した「シネマ・フェスティバル」永田俊也同様、万人にオススメの青春小説。青春小説バンザイ!