サジュエと魔法の本-下-青の章

サジュエと魔法の本 下巻 青の章

サジュエと魔法の本 下巻 青の章

「サジュエと魔法の本-下-青の章」伊藤英彦(2004)☆☆☆☆☆
※[913]、国内、小説、ファンタジー、魔法、児童文学、冒険

上巻だけでは評価できないと評してから二週間。http://d.hatena.ne.jp/snowkids99/20050625 やっと下巻入手、読了。これはおもしろい!おまけして☆5つ。でも4つじゃ不足。オススメ。振り返れば幾つかの欠点がないわけでもないのだが、そこで立ち止まらせることなく、一気に読ませる作品。褒め言葉として、まるでディズニー映画のようにどきどきわくわくする作品。適度なタイミングよいユーモアも◎。小難しい理屈は抜きにして楽しめる。作家本人があとがきで触れている、影響を受けた「天空の城ラピュタ」のようなアニメ作品になりそ。宮崎駿も分かりやすい作品としてこの本をアニメ化しないかな。宮崎アニメの動きで観たい、読んでいてそう思った。
正統派の児童文学であり、ファンタジー。児童文学が先なのはサジュエの成長譚でもあるから。尤も、下巻の後半までサジュエは全然活躍しないのだが。

あらすじを追うのはやめる。ぜひ読んでほしい。手に汗握る苦境、愛するものを信じる力。児童文学かくあるべし。

上巻に引き続き登場人物が活きている。勧善懲悪のステレオタイプであるが、この作品には合っている。魔具工ルイジとリンダのコンビが上巻に引き続き小気味いい。魔具工ルイジが、魔具工としてのプライドを捨て、戦いのために魔法を使う「じいちゃん、ごめんな・・・」かっこいい。下巻から新たに登場するカンフィー。狼の顔を持つ獣人「天狼星の剣士」、この呼び名のエピソードもいい。魔法を見破る眼を持つ。ルイジの相棒、リンダの秘密。そして蒼の書の継承者でサジュエとお互いにほのかな恋心を寄せ合うリアンジュの秘密。これでもか、これでもかとばかりに用意されたエピソードが読者を楽しませる。

いい意味で人が死なない。名も無き大勢のものは倒され、死んでいるのだが、少なくとも読者が感情を寄せる人たちは死なない。残酷な描写であるが、以下の描写でも「人」は死なない。邪道師との戦いから、命からがら逃げ帰った二人の魔道師。一人の魔道師を助けるべく治癒の魔法をかけた別の魔道師の姿はトンボに変わり、治癒の魔法をかけられた魔道師もカエルに姿が変わる。そして姿の変わったカエルはトンボを食べてしまう。戻ってきたもうひとりの魔道師もあっという間にネコに姿が変わり、魔道師であったカエルを飲み込む。そして、そのカエルの毒で死んでしまう。それは恐ろしい邪道師の呪いであった。しかし、人の姿では死なない。
ともすれば、簡単に登場人物を殺し、それを乗り越えることで成長する物語が多い中で、この作品では、登場人物は徹底的に生きる。戦いで片手を失っても、両眼の視力を失っても。邪道師の呪いで、親友が殺し合いを演じるような羽目になっても。はたまた、やはり邪道師の思惑で、愛するものから攻撃を受けても、愛するものを信じ、生きる。

ご都合主義との謗りもあるかもしれない。しかし、善意と気持ちいい人々の物語。子どもの心に戻って楽しむべし。ディズニーランドを楽しむような気持ちで・・。

蛇足:この作品のキーワード「願う心と考える力」。下巻から突然出てくる。すごくいい言葉なのだ。でも、唐突。惜しい。