ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、犬、軍用犬、年代記

二つの犬の系統の話。二つの大きな物語の流れ。
イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?

1943年、アリューシャン列島の無人の島に残された日本軍の軍用犬四頭を祖とする血統の物語。それは時をまたぎ、世界をまたぎ、拡散し、そして集束される。いっぽうロシアの宇宙開発においてロケットに乗せられた二頭の犬、ベルカとストレルカ。 犬の血統、広がる犬の子どもたち、孫たちの物語。ロシアの片隅で暮らす老人と、人質としてとらえられた日本のヤクザの娘と犬の物語。
ふたつの犬の系統の物語。犬の年代記、そしてロシアの老人、日本の少女を中心とした物語。ふたつと、ふたつの物語が並行して、交差して物語を進める。

好きな作家古川日出男の最新作。2005年上半期直木賞候補作。残念ながら受賞を逃す。残念?本当に残念なのか?この作品が直木賞を受賞したならば大変なことが起こる。大衆文芸であるはずの直木賞で、理解できない作品が受賞。そう、理解できないのだ。
文芸か、文学かと問われれば僅かに文芸であり、小説である本作品。自信をもって理解したといえる本読み人が何人いるのだろう。かくいうぼくも理解してない。古川日出男については以前から書いている通り、ぼくにとって「読む」ためにある。その文体と、思考パターンに身を任せる。畳み掛けるような文体。平気で嘘をつき、あたかもそれがほんとうのことであるかのように、事実と真実を混ぜ込む。

ただ正直言って本作品、冗長。とくに300ページを過ぎたあたりから、急に失速。それまでのスピード感が、ドライブ感が失せ、爽快さがなくなる。これは主観。そこが残念。もちろん、古川日出男を万人にオススメするようなことは、今回もできない、する気もない。その主観だけで評価している作家の作品として、残念ながら今回はあまり評価できない。

好きな作家の作品を読んだという感想であり、記録。

個人的には怪犬仮面とサモア人のボディガードを含む犬のエピソードが楽しい。捕らえられたヤクザの娘の不敵な態度も○。この娘、すげぇよ。

蛇足:軍用犬からか、押井守の描く「人狼-ケルベロス-」が想起された。全然重ならないのだが。