半島を出よ-上-

半島を出よ (上)

半島を出よ (上)

「半島を出よ-上-」村上龍(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、小説、近未来、シミュレーション、北朝鮮、征服

上・下巻で一組の作品を、上巻のみで評価することはできない、は自明。しかし、読書記録も兼ねているので許されたし。作品全体の感想は下巻読了後ということとする。今回は雑感。ちなみに現在のところ☆4つ。すごくいい。

夏の課題図書。「図書館で本を借りる」ではなく「友人から本を借りる」。会社の友よりの課題図書(笑)。いや、ホントに読みたかったんだ。彼とは、たまたま村上龍の「希望の国エクソダス」が話題となったとき、共感する部分多いことから本を貸してくださる関係に。いや、嬉しいっす。ちなみに今借りてる本が同じ村上龍「ヒュウガウィルス」「五分後の世界」。彼いわく「希望の国エクソダス」含み、同じテイストとのこと。プラス、同じ村上つながりか?村上春樹海辺のカフカ」。再読になるが、ナカタさんが忘れられないのだ。このまま羊三部作再読へいくか?ユミヨシさんのいるドルフィンホテルへ?

閑話休題
上巻430ページ、下巻493ページ。圧倒的な分量。いや、好きなんだ長編大作。最初の登場人物紹介でたじろぐ。6ページ130人強。ううう。作品の中ですべての人物が重要というわけではないが、130人強だぜ、まったく。ちなみに下巻での人物紹介は4ページ、90人。その代わり巻末の参考文献が映像含め12ページ250本弱。プラス参考web30本強。「希望の国エクソダス」でも感じたが、村上龍の近未来シミュレーション物の取材量は半端ではない。そこに一環としてあるのは虚構(フィクション)ではあるが、嘘ではないという姿勢。ありうべき真実を描きたいという姿。
個人的に村上龍は、苦手な作家であった。同じ村上である春樹に比べ、ギラギラしてるというか、ギトギトしてるというか・・生理的な何かを感じる作家であった。それが、認識を改めたのが「希望の国エクソダス」であった。たぶん誰かに薦められたのだろう。恐る恐る読んだ結果。当たり!だった。これはスゴイと思った。
本作品もスゴイ作品。いちフィクションとしての小説としてみても充分エンターティメント作品であり、また近未来シミュレーションとしても、まさしく起こりうる世界。視点がいったりきたり定まらないが、決して分かりにくいわけではない。それぞれが、まさしく同時に進行している。

物語は、経済破綻を起こし、アメリカからも見放され 世界的に孤立してしまった日本を舞台とする。いや、アメリカ自身も世界の警察であることができなくなった、そんな時代2011年。日本では富裕の二極分化が進み、失業率も高まり、ホームレスも増える一方であった。 そんな中、北朝鮮の反乱軍を名乗るたった9人の兵士により、福岡ドームからはじまり福岡全体が制圧された。有史以来、他民族よりの占領を経験したことのない日本という国において、この有事という場面における対策は、場当たり的なその場しのぎ、後手後手となっていた。その中で北朝鮮の反乱軍たち、自らを高麗遠征軍と名乗り始めたテロリストたちは、福岡において自らの足場を着々と築いていくのであった。

物語は、高麗遠征軍、福岡に住居をもつホームレス、高麗遠征軍を取材する新聞記者、内閣危機管理センターに集まる政治家の視点でそれぞれ描かれる。上巻においては活躍しないホームレスの少年たちが、これからどんな活躍をするのか。高麗遠征軍に征服された日本がどうなっていくのか、期待をもたせたまま下巻に続く。

朝日新聞毎日新聞、NHKなど固有の名詞が、ヘンにぼかしをいれた似たような名前に誤魔化されることなく使われる。最近読んだ松岡圭祐ミッキーマウスの憂鬱」http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/6912991.htmlでの使われ方とは大きく違う。この「半島を出よ」では、固有名詞が必要なのだ。あえて固有名詞である必要、意義のある作品である。

さて、下巻が楽しみである。