ヒュウガ・ウィルス-五分後の世界II-

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界〈2〉

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界〈2〉

「ヒュウガ・ウィルス-五分後の世界II-」村上龍(1996)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、パラレルワールド、シミュレーション、if 、ウィルス、SF

前作「五分後の世界」でなんでも略すと、本来の言葉の意味が分からなくなると説いていた作家が、アンダーグラウンド軍をUG軍に、具体的に略しちゃいけないと言っていたCNNまで、その表記で使う。なんだいいったい?
前作の続篇とあるが、現代日本にパラレルに存在する世界というシチュエーションを使っただけ。敢て、続篇とする必要はない。前作でのストイックに動く兵士を借りたかっただけ。しかしUG軍の兵士が、仲間の兵士がウィルス感染し、まさに死なんとするとき「死ぬな」なんて叫ぶのは、ちょと世界観違わないか?

物語は、UG軍に同行するプレス、CNNのキャサリン・コウリーの視点で描かれる。しかし、読み手の感情移入を許さないような事実のみの描写。あくまで語り手。
九州のビッグ・バンと呼ばれる地域で致死性の高い凶悪なウィルスが発生した。そのウィルスに感染すると奇妙な筋肉痙攣を起こした後に血を吐いて死ぬ。具体的には、ウィルスの作用で意志と関係なく筋肉が引き攣れ、頚の骨が折れるほど。ビッグ・バンの近隣の村ヒュウガに発生していた感染症によく似た症状から、そのウィルスはヒュウガ・ウィルスと呼ばれるようになった。UG軍の使命はウィルスの正体を掴むこと、発生源とされるヒュウガ村を殲滅すること。使命を果たすためUG軍はビッグ・バンに向かう。CNNの記者を同行して・・。

前作同様、村上龍シンパには評価が高いようだが、丁寧な取材と、ありうべくシミュレーションという完成度の高さだけのような気がする。物語としてはその必然性がわからない。この作品が発表された頃って、もしかしてエボラ熱がノンフィクションでもフィクションでも話題になっていた頃ではなかったけ。本作ではやたらウィルスの説明が難しく、たぶんそれは真実の取材、知識を基に描かれた本物なのだと思うが、実はよく理解できない。ぼくが莫迦なのか、作家が理解させようと説明してないのか。章立てや、軍の行動をウィルスに見立て描くことに比喩を意識しているのだろうが、こちらも意地で分かってあげない。分かったようなフリもしない。いわゆる一般的な、ウィルスの恐怖を描いたり、人類がウィルスにどのように打ち克つという作品でないので、分かってあげないと心に誓うととてつもなく、つまらない作品。
前作に引き続き、精神をも含め、ぬるくなってしまった現代への警鐘を鳴らすことを目的にしているのであろうとは思う。しかし、そうならば、先に述べた表記の問題はいかがなものか。初っ端で躓いたが故に、作品に入り込めなかった。
ただ、ウィルスの発生源へ向かうという目的が見えていた分、前作よりは読みやすかった。尤も、前作同様あまり好きでない、残酷でグロテスクな描写のオンパレード。お好きな人は・・、だな。え?もう読んでいる。そうだよな。

蛇足:比較するのもなんだけど、「半島に行く」のほうがまだ物語としても、まし。