君たちに明日はない

君たちに明日はない

君たちに明日はない

君たちに明日はない垣根涼介(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、リストラ 、山本周五郎賞

デビュー作「午前三時のルースター」(第17回サントリーミステリー大賞受賞)はちょっと疑問?だった。その後「ワイルド・ソウル」「ギャングスター・レッスン」「ヒートアイアンド」がぼくの心に響く!響く!でお気に入りとなった作家、垣根涼介氏の最新作。今までのミステリーとかクライム小説と違う、サラリーマン・リストラ物の現代小説。正直、期待はずれ。作家が新たな境地に挑戦することはいいことだと思う。しかし、書くという姿勢において少し肩の力を抜きすぎていないか?気軽に読める作品であり、ところどころの描写は垣根涼介らしいのが、それだけ。勢いもなく、丁寧でもない。どうした垣根涼介!頑張れ、垣根涼介

企業のリストラ対象者に対し、リストラ宣告を請負う会社に勤める村上真介33歳が主人公。派遣会社から派遣された美人スタッフ川田美代子をアシスタントにし(といえば聞こえがいいがお飾りでしかない)、今日もリストラ対象者と面接をする。どの企業でもリストラ対象者の大半は同じ類型(パターン)に分類され、村上も淡々と、スマートに仕事を進める。今は人のクビを切る立場の彼も、実はリストラをうけていた。そんな主人公の恋と仕事の物語。

連作短編集の形式で、主人公のリストラ請負という仕事を通し、リストラの対象となった人々、そして主人公の姿を描く。しかし、中途半端。大きなひとつの物語でもなく、各短編としても完結しきれていない。
確かに、リストラ面接対象として出会った年上の恋人芹沢陽子との恋、高校時代の友人をリストラし、新たな活躍の場を与えるエピソード、創業期に苦労したがゆえに、安定した数字を求めるプロデューサーと浪花節野郎プロデューサーとの比較など、それぞれ、気軽にたのしくおもしろく読ませる。しかし、これらの話、どっかで聞いたことあるぞ。新奇なのはリストラ業者という新しい職業からの視点という点だけで、物語はステレオタイプステレオタイプは悪くない。安心して読める。しかしそこには、何かがなければ意味がない。残念ながらこの作品で、ぼくは何かを見出せなかった。
気の強い恋人との明るいエッチ。こだわりのバイク(マシン)の描写など垣根氏らしい部分もあり、安定した文章で楽しくは読めた。でも、もっと、もっと丁寧に書けたのでは?リストラ会社という新しい仕事を立ち上げ、微妙に魅力が見え隠れする主人公の会社の社長、面接対象者であるカーメーカーのコンパニオン、派遣会社から派遣されてきている見てくれだけのアシスタント。伏線として、フラグを立てられたと感じた幾つかのポイントが作品を読み終わってみると、何事もなく過ぎた。主人公がリストラされていたエピソードも、もっと作品に絡めるべきじゃないかと思うのだけど。
ラストも余韻があるとするか、唐突なエピソードとするか評価は分かれる。ちなみにぼくは後者。うまく誤魔化して終わったなという感じ。

評価は、それでも垣根涼介に期待して、甘めで☆3つ。

蛇足:え?これ山本周五郎賞受賞なの?しまった、ぼくの評者としての眼が腐ってる証明だな(苦笑)。