いつか虹の向こうへ

いつか、虹の向こうへ

いつか、虹の向こうへ

「いつか虹の向こうへ」伊岡瞬(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、ハードボイルド、横溝正史ミステリ大賞テレビ東京

今年度の横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞受賞作品。過日、二時間ミステリー枠でTVドラマ化されたようだが、まさしく二時間ミステリーのようなそんな作品。
可もなく、不可もなく。悪い言い方をすれば、新人のデビュー作にしてはきれいにまとまりすぎ、どこかで見たような、どこかで聞いたようなそんな作品。
ステレオタイプ(最近、よく使うなこの言葉)のハードボイルド。ちょっと深みに欠ける。飄々とした元刑事が主人公なのだが、過去の傷が全然うずいていない。それぞれに過去に傷を持つ同居人という設定も生かしきれていない。小気味よくまとまっており、安心して読める読み物ではある。でも、あまり高い評価はできない。

主人公は警備会社に勤めるしがない中年、尾木遼平。元は優秀な刑事であったが、あるとき魔が差したとしか言えない事件を起こし、殺人で有罪、懲役を経てきた。職も、家族も失い、離婚した妻への慰謝料を払うため手許に残った自宅を売って、身一つにならんとする日々。買い手がつけば無くなってしまう尾木の家には、それぞれ過去に傷を持つ三人の居候が、同居していた。
そんなある日、飲み過ぎ、終電を気にしながら駅に向かう尾木は、ひとりの少女高瀬早希と出会った。泊まるところがないという。「電車賃ぐらいなら貸してもいいが」「アリガト。でも、泊まるところを探してるから」。そんな会話を交わし別れたはずだった。しかしその直後、酔っぱらった尾木に若いチンピラ三人が絡んだことをきっかけに、早希は尾木の家に転がり込むことになった。
当面の荷物を取りに外出していた早希を探しに、若い男が尾木の家を訪れた。尾木に暴力を振るい、家中を荒らし帰っていた。その夜、男が殺されたと警察が尾木の家にやってきた。
死んだ男は、檜山組組長の甥であった。犯人を捜せ、檜山組組長からじきじきに命令され、尾木は捜査を開始する。タイムリミットは7日間・・。

なにかが足りない。いや、各設定がうまくおさまっていない。挿入された寓話「虹売りの話」が、作品の主題だとするなら、作者が訴えたいとするところまで書けていない。読者に伝わらない。なんか、ちぐはぐ。尾木や同居人の過去、それぞれの傷は、それぞれの中にあるだけ。ひとつの疑似家族を演じているはずなのに、傷の共有までたどりつかない。故に薄っぺらい。また、暴力団内部の問題もとってつけたよう。各登場人物が、なんだか生きていない。全体的にとにかく薄っぺらい印象。あれ、褒めるところがないじゃないか・・。

もしかしたら、☆二つが妥当なのかもしれない。いや、そんな悪い作品ではないのだ・・。なんか、もったいない。

蛇足:帯によれば、選考委員絶賛、満場一致で受賞決定とあるが、だとすると随分お手軽に決めちゃったと感じる。選評を読んでも、適度にうまかったので受賞させたと読めてしまう。しかし、過去に「受賞作なし」もあったのだから、今回も受賞作なしでよかったではと、思うほど、「大賞」として重みがない。横溝正史ミステリ大賞という帯がないひとつの作品とすれば、確かに新人にしてはうまく、読める作品だと思う。しかし、あるミステリ大賞の大賞として受賞させるほどの力はないのでは?だから、最近、賞が軽いんだ。個人的には「賞」で本を選んだり、読んだりするほうではないのだが。
横溝正史ミステリ大賞過去の受賞作リストよりオススメは井上尚登「T.R.Y.」、小笠原慧「DZ ディーズィー」、鳥飼否宇「中空」(優秀作)。あたりか。
一番のオススメは「RIKO−女神(ヴィーナス)の永遠−」柴田よしき&「水の時計」初野晴。とくに「水の時計」はちょっとダークなおとぎ話でいいぞ!