桜小僧

桜小僧

桜小僧

「桜小僧」ヒキタクニオ(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、小説、現代、青春

鳶がクルリと」「アムステルダムの日本晴れ」「凶気の桜」「ベリィ・タルト」がオススメの、ぼくの好きな作家ヒキタクニオ。図書館の新着リストから選び、予約して、手に取った瞬間。唖然。えっと、これ「凶気の桜」の続篇?
映画化された「凶気の桜」(←窪塚くん主演。これもオススメ)の主人公三人を彷彿させる坊主頭三人。ヒキタクニオを知らない人は、すぐ手に取る表紙じゃないな。商業的にどうなの?で、全然、別の話。

桜小僧とは、英語のチェリーボーイ(=童貞)を荻窪の高校生三人組が和訳した言葉。祐太、康世、義信の男子高校生三人組ははやく童貞を卒業したくてたまらない。そんなある日、祐太を置いて、康世、義信の二人は童貞を卒業。あせる祐太は・・
表題作「桜小僧」をはじめとした7作の短編連作集。三人組の視点を入れ替え、それぞれを描いた短編から始まり、ヘン子とよばれる辺(ほとり)という名の少女の生活を描いた短編に続く。そして物語は祐太に焦点をあて、豪快な祐太の父親と新しい母との物語、祐太と辺(ほとり)の恋、恋と友情と喧嘩の物語へ続く・・。

「俺は馬鹿だから、あんまり考えるのうまくないけど、わかったんだ」
「何を?」
「ヘン子が好きだってこと。勝手なこと言うけど、ヘン子は俺がお前を好きかどうかを、はっきり知りたくて、好きならケンカしないでって約束させたんだと思った。だから、大丈夫、ものすげえ、おまえのことが好きだ。だから、大丈夫だ。いまから、約束を破る」
「大丈夫だって、おまえのこと滅茶苦茶好きなんだから」

正直、祐太を主人公に持ってくるまでは、読むのが辛かった。三人の登場人物が、それぞれ別々の人物なのに、読んでいて区別がつかない。キャラクターとしてそれぞれが立っていない。ケンカと食欲の生活。「凶気の桜」の三人組を、もっと小さくしたような感じ。挙句、突然、いまどきの女子高校生の話が飛び込んできた。どうしようかと本気で思っていたところ、物語は祐太を主人公とし、焦点を固定させた。途端に話が活きてきた。
こどもの友達でも平気で殴る、祐太のぶっとんだ父は、突然、後妻に黒人の女を家に連れてくる。親子とも巻き込まれる、女をめぐる事件。骨と骨がぶつかる重い音が聞こえてきそうな、暴力シーン。血にまみれてもニヤリと笑うような、そんなクソ親父。祐太とヘン子の恋を応援する、康世と義信。友情も恋も両方とも選んじゃう祐太。見せパンを見せながら、そんな祐太に簡単には、身体を許さないヘン子。いやぁ、まさしくいまどきの高校生の青春小説。
金城一紀ゾンビーズ「レボリューションNO.3」や「フライ・ダディ・フライ」と同じ系譜。男の子ってバカだよね、いつまでたっても子どもなんだからという奴。前半のもたつきさえなければ、もっとおもしろかったと思う。前半に比べ、後半のテンポの良さと勢いの良さが際立つ、というか、前半ダメすぎ。

評価は後半に免じ、☆三つ。前半はほんと、どうする。表題作、要らないじゃん。

蛇足:この評の中で触れた作品は、すべてオススメです