ゴーディーサンディー

ゴーディーサンディー

ゴーディーサンディー

「ゴーディーサンディー」照下土竜(ひのしたもぐら)(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、SF、ミステリー、ハードボイルド、近未来、第6回日本SF新人賞、サイコミステリー、スプラッタ

第6回日本SF新人賞受賞作だそう。以前読んだ「終末の海」片理 誠 [ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/3287687.html ] が、第5回日本SF新人賞佳作だったことを思えば、確かに佳作と新人賞の違いはあるなと思わせる出来。いろいろ欠点はあるが、おもしろかった。まさしくこれからが楽しみな新人といったところ。
しばらくは、本作品で作り上げた世界で筆を磨いて、次なる作品へというのがいいのでは?と勝手なこと思う。大好きな押井守の世界に似ているという評も見かけたが、どちらかというと十年ほど前のマンガ「多重人格探偵サイコ」原作・大塚英志、漫画・田島昭宇(懐!)と匂いが似ている。本書は表題作「ゴーディーサンディー」と、その中で描かれる犯罪抑止監視システム千手観音ができるに至った、表題作のプレストーリー短編「仏師」を収める。

白い肌にメスが走り、皮膚と筋肉を切り裂く、あふれる赤い血液。スプラッターな描写のはずなのだが、なぜか脳裏に浮かぶのは無機質な、白と黒の世界。生理的に受け付けない人は、ダメな世界かもしれない。反面、カッコいいと思う若者も多いと思わせる作品。そう、若い世代の作品。

近未来の日本は、千手観音と呼ばれる監視システムで、全国をカバーする治安維持がなされていた。それは、街角のあちこちにカメラが設置され、不審な人物、不審な動きを監視し、犯罪が発生するや否や通報が発令される、あるいは、犯罪の発生を未然に防ぐシステム。そのため、劇的に犯罪発生率が低くなった反面、新たな犯罪を生み出すことになった。それは、人体に仕込んだ爆弾、擬態内臓による犯罪。
警察機構の機動隊爆発物対策第六班、通称解体屋に所属する心経初(しんぎょうはじめ)は、擬態内臓を除去することを任務とする。彼にとって、それは単なる任務である。擬態内臓を埋め込まれた人間から擬態内臓を除去した結果、その人物が生を失っても仕方ないこと。淡々と任務をクールにこなす。また、犯罪を犯す人間に対しても憎しみをいだくわけでもない。仕事なのだ。ゴディーサンディいつもの騒がしい日曜日に事件は起こる・・。
パートナーの新人青水、TV局の事件で知り合った女キャスター橘京家、そして、連続した擬態内臓犯罪事件の仕掛け人名無し屋という魅力的な登場人物を揃え、作品は進む。

主人公の一人称の語り、感情でなく事物の描写を中心に進む、これはまさにハードボイルド。というか、いまどきの作品。誰が話したかをきちんと明記していないので、いったいだれがセリフをしゃべっているのかわからなくなる。それは、欠点のひとつ。ただし、この雰囲気は悪くない。飄々と淡々と、ただ己の任務を気負いもせずに果たすだけ。そして、最後の事件。愛する人を、心の葛藤と戦いながら、しかし淡々と冷静に解体していく。静寂と余韻を残すラスト。続くだろう、これは。

千手観音という全国を網羅する監視システムにおいても、隙があり、犯罪が起こる。またこのシステムに対するプライバシー問題がとりあげられるリアリティー。この創られた世界はとてもリアリティーがあり、魅力的だ。同じ世界を舞台にした続篇を期待する。