フリッカー式-鏡公彦にうってつけの殺人-

snowkids992005-08-18


フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人 (講談社ノベルス)

フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人 (講談社ノベルス)

フリッカー式-鏡公彦にうってつけの殺人-」佐藤友哉(2001)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、連続殺人、誘拐、妹萌え(笑) 、メフィスト賞

主人公は若い男。一人称で語られる、饒舌で、小賢しくて、小憎らしくて、屁理屈ばかりの、小馬鹿にしたような小粋な語り。先日読んだ「ゴーディーサンディー」もそうだったけど、この10年ほどで多く見られるようになった、若い作家のひとつの小説のスタイル。ミステリーの分野だけでない。嫌いではない。あとは、中身の問題。

ネットの本読み仲間が、最近本書をとりあげていた。タイトルが妙に気になり、図書館の書架で並んでいたのを見つけ、借りてみた。読んでみて気づいたのだが、実は再読。まったく覚えてなかった。というか、ラストにあきれたんだろうな。若い人って好きだよね、こういうオチ。作品で扱っている問題は別として、小利口な会話で進むこういう雰囲気は好き。この作品も同じ。雰囲気は嫌いでない。では、なぜ評価が高くないのかといえば、可もなく不可もなく、いや不可はあるかなという作品だから。結局、作家が伝えたいものが全然分からない。正直ラストは独りよがり。敢えて酷評すれば、雰囲気を読ませる小説。いや、それほどひどい作品ではないのだが。

小憎らしいが可愛い妹、佐奈が死んだ。自殺だった。理由は不明。〜だったはずなのに、見知らぬ若い男、大槻涼彦が、僕、鏡公彦の前に現れ真相を教えてくれた。何の宗教か知らないが、狂った男三人が依代(よりしろ)として佐奈を、交互に陵辱するビデオを見させられた。男たちは資産家や、宗教者などの有力者。涼彦は、復讐のために彼らに近づくことは僕では無理だろうということを教えてくれ、代わりに彼らの娘、孫娘の情報を教えてくれた。僕は、佐奈の復讐のために、彼女たちを誘拐することにした。
一方、公彦の幼馴染、明日美は不思議な能力を持っていた。この数年で、全国でのべ80人近い若い女性を連続して殺害してきた突き刺しジャックが犯行をおこなうとき、ジャックの見る世界と同調してしまうのだ。明日美の目の前で、少女たちが殺害される。ある日、犯行現場が身近なビルであることに気づいた明日美は、ジャックの正体を明かそうと犯行現場へ向かった。現場では、しかし、一歩遅くジャックの姿はなかった。代わりに、若い男と出会う。
物語は、ふたりの、ふたつの物語が並行して進む。そして、最後にふたつの物語は邂逅する。まさかの犯人。まさかのラスト。

簡単に言えば、妹萌えのお兄さんが、妹の仇をうつため、犯人の娘、孫娘を誘拐する話。ハムラビ法典のように、公彦が誘拐した娘たちを陵辱するような話なら救いがないが、公彦も誘拐より先を考えてないため、誘拐に成功したあと、途方にくれるのがマヌケ。あまりに生意気な娘を、逆上して撲殺してしまうのはやりすぎだが、生理的に不快な描写があまりないのはよし。連続殺人犯、突き刺しジャックとシンクロする明日美の設定もよい。
しかし、それだけの作品。妹の復讐の矛先は、たはり妹を陵辱した犯人でなければいけない。その犯人の娘たちを誘拐しても、犯人たちに告知し、可愛い娘の心配をさせなければ復讐にならないのではないか。

そこいらじゅうで、登場人物が壊れているとのフレーズが出ているが、僕には全然壊れているようには思えない。彼らの倫理観はともかく、思考の筋道、考え方は尤もである。まちがった考えにしても。壊れているというのは、こう、もっと、独りよがりな考え方を言うのではないか?
レイプやら近親恋愛などあまり好みでない題材を扱っているが、粘着質な書き方でなく、さらっと流しているので、まぁ許せる。
突き刺しジャックの犯行の理由は、オリジナリティーがある。これをもっと活かした作品にしたほうがよかったのでは?二者択一、誇りある死か、汚れた生か。でも、実際には本作品のように、そう簡単に死を選ぶものでもないし、選ばれても困ってしまう。かといって、いまどきの女の子だから、汚れた生を簡単に選ばれてもなぁ・・。

ジャケットは二種類あるよう。ぼくは写真版のほうを読んだ。イラスト版なら、手を出さないな。

ちなみに知人の書評は、またもや八方美人男さん[ http://www2u.biglobe.ne.jp/~BIJIN-8/fsyohyo/flicker.html ]であった。