HEARTBEAT

HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)

HEARTBEAT (ミステリ・フロンティア)

「HEARTBEAT」小路幸也(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、少年少女、三人組、幽霊

ごめん。ホントにごめん。どうしても高い評価がつけられない。何かが違和感。どこかぎくしゃくしてる。テーマ自体はいい。とても哀しく、そして、温かい。それは頭で理解できる。しかし、僕の心にしみこまない。

小路幸也の最新作。彼の作品を初めて読んだのは、去年のこと。図書館の書架でみかけた「Q.O.L.」三人組の若者男女のロードストーリー。若々しく、切なく、あたたかく、とても気持ちいい作品だった。その後「高く遠く空へ歌う歌」を読み。最近「そこへ届くのは僕たちの声」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/8447887.html ]で、思わず涙したりもした。しかし本作品は正直、首をかしげた。たぶん今までの彼の作品でいちばん巧い。ただ従来の作品にくらべると、少しだけ切実さに欠ける。多くの本読み人たちは、咽び、感動し、涙している。だから、感じ取れないのはぼくの感受性の問題。

物語は、高校の時の女友達ヤオとの約束を守るため、主人公は戻ってきた。N.Y.より、暗い世界より。しかし、約束の場所にヤオの姿は見えない。代わりに彼女のご主人と名乗る男が現れ、彼女が失踪したことを告げられた。
高校時代、主人公は成績優秀な青年で、委員長をしていた。対してヤオは、いわゆる素行の悪い不良。住む世界の違うはずの二人が、ふとしたきっかけで、結ばれる。そして十年後の約束を交わした。
失踪したヤオを探すべく主人公は、高校時代の友人巡屋に連絡をとった。奇しくも巡屋の請け負った仕事には失踪したヤオが絡んでいるらしい。ヤオを探すために行動する二人。
一方、小学生のユーリは、大邸宅を構える新興財閥の直系の跡取り。ある日、死んだはずの母の幽霊が邸宅内に現れたと聞いた。なぜ、お母さんの幽霊が出てきたの?幼い頃からモデルをしている、ユーリのクラスメイト、年齢よりおとなびた美少女エミィと、同じくクラスメイトのハンマを交え、お母さんの幽霊の真相を探る。

うまいのだ、この作品。どんでん返しのトリック、各所に散りばめられた巧さ。しかし、ネタバレは禁物。未読の方の楽しみを奪ってはいけない。(最後に、「蛇足」でちょこっとだけネタバレあり)
久々に作品のタイトルが重要な意味を持つ作品だった。タイトルに添えられた「Can't you hearmau heartbeat? Can't you hearmau heartbeat?」(ぼくの鼓動が聞こえるかい?)の意味も読めばこそ伝わる。そして意味がわかった瞬間、タイトルとタイトルに添えられたこの言葉が胸を打つ。
目次と話の進め方(物語構造)も凝っている。この作品は「Boy's SIDE」「Girl's SIDE」「Last Man's SIDE」の三つの大きな章立てがあり、その中にさらに物語を進める各章があるという構造になっている。
「Boy's SIDE」の各章は、 「委員長」とユーリそれぞれふたりが主人公の物語を、ふたりの主人公によって交互に語られる。続く「Girl's SIDE」は「委員長」の高校時代の女友達ヤオとユーリの女友達エミィを語り手に変え、やはり交互に「Boy's SIDE」から続くそれぞれの物語を語る。このsideの最後で、ふたつの物語は出会い、邂逅し、最後の「Last Man's SIDE」へ進む。
「Lastman's side」では「委員長」を語り手にする。しかし、最終章で語り手を巡屋に変える。最後の一文がきいている。
〜「うってつけの相棒と一緒に見に行くよ」〜
彼は消えたわけでない。

え?え?え?やられた!確かに伏線はあった。しかし、そうなの?えぇぇぇ?

そういう意味でホントうまい作品であった。だが、冒頭に述べた通り、個人的にはあまり高い評価はしない。
と言いつつ、この魅力溢れる登場人物たちによる続篇を期待する。巡屋を主人公とし、そのパートナーに「委員長」。エミィやハンマ、ユーリもぜひ登場して欲しい。

蛇足(ちょびっとネタバレ、未読の人は読んではいけない!)
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このネタは、ちょっとズルイ。見せたい人にだけ、見せる。そこを踏まえてちゃんと書いてあるので、読み返すと確かに巧いことを再確認できる。叙述トリックっていうんだっけ?でも、ズルいよ。まさかねぇ。うまく騙されました。「葉桜の季節に君を想うということ」(歌野 晶午)ほどではないけど、気持ちよく騙されました。

http://kanata-kanata.at.webry.info/200511/article_31.html