ラス・マンチャス通信

ラス・マンチャス通信

ラス・マンチャス通信

ラス・マンチャス通信」平山瑞穂(2004)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ファンタジー、文学、現代文学、ホラー、日本ファンタジーノベル大賞

不遇の文学賞と信じてやまない日本ファンタジーノベル大賞の2004年度第16回大賞受賞作。ネットで好評の「ボーナストラック」 http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/1890794.html は、この年の優秀賞だったのだが、大賞は、あまりネットの書評で見かけない、ひっそり。まさに不遇の受賞作。

いや、しかし、正直お手上げ。「ファンタジー」というカテゴリーではなく、「日本ファンタジーノベル大賞」という文学賞の間口の広さを、改めて認識させられた。この作品、普通ファンタジーと言わない。ホラーとか、現代文学の枠か。

表紙の装画が魅力的、セピア色の世界。作品もまさしくそういう世界。どこか懐かしいような、不思議な世界。押井守が映画「パトレイバーThe MOVIE」で描いた、再開発の途中で残された街並で、生活が営まれているような世界。しかし、現実の世界とは、一枚薄いベールで隔たれているような、そんな不思議で奇妙で、しかし妙なリアリティーのある世界。

物語は、僕を主人公とした五つの章「畳の兄」「混血劇場」「次の奴が棲む町」「鬼たちの黄昏」「無毛の覇者」からなる。ひとつの長編であるが、連作集と言えなくもない。各章で主人公の生活、行動する場所は変わり、読者に明確な姿を見せない異形のモノたちと出会っていく。しかし、作品の本質は、僕という主人公と家族というものの物語。

父、母、姉、僕の四人家族の小さな家で、傍若無人な振る舞いをするアレ。臭い陸魚をおもちゃにして遊ぶアレ。僕の家は、いつも臭う。そんなアレを、僕たち家族は見えないフリをして生活する。なぜか一切逆らうこともできないで。しかし、ある日アレは、姉を犯そうとした。そんなアレに僕はガマンできず、撲殺してしまった・・。
アレを撲殺したことで、僕は施設にいれられることになった。小さな家の、小さな家族の崩壊。父、母、姉、僕の家族はバラバラになっていく。父の友人小島さんの紹介で、一人新たな街で職を得、生活する僕。そこでも、異形のモノと出会い、またもや新たな街で生活するようになる僕。流されたまま、生活する僕。
そして、最終章。ぼくは、すべてが呪縛の中にあることに気づく。最後に僕のとった行動。それは、自由への第一歩だったのだろうか・・?

好きな人は、きっと好きな世界、雰囲気。僕個人の好みではない。とくに最後の章のくだりは、ダメだな。救いのなさが売り物の作品もあるし、そういう小説の一切を認めない訳ではないのだが・・。
決して、悪い作品ではない。完成度も高い。好みの問題で、僕はオススメはしないが、読む価値はある作品