聖殺人者

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聖殺人者

「聖殺人者」新堂冬樹(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、ノワール、マフィオソ、オメルテ、新宿

「天使がいた三十日」http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/10023907.htmlに続く新堂冬樹作品。「天使〜」に比べれば新堂冬樹らしいが、まだまだ甘い。新堂冬樹はやはり、金のため、自分のため、肉親を裏切ることさえ厭わない、自分勝手で思い込みの激しい人物を描いてこそ。他人に薦めたら人格を疑われる作品「カリスマ」「無間地獄」「鬼子」「溝鼠(どぶねすみ)」といった作品たちこそ、新堂冬樹

本作品は「悪の華」の続篇。前作「悪の華」を未読でも読めるが、前作のネタバレがあるので、当たり前だが順番に読んでいくほうがいい。前作は、イタリアのマフィオソ(イタリア語で「勇気ある男」という意味)のカポ(親分)の息子ガルシアが、家族を裏切り惨殺した男への復習を心に秘め、単身、叔父を頼りに日本へ身を隠し、ヤクザの抗争に巻き込まれていく姿を描いた正統派エンターテイメント作品。突っ込みどころ満載だが、敢て目を瞑り楽しむべし。いや、ほんと、イタリアからきたばかりの癖にやたら熟語の理解度が高いとか、今は亡き盲目の最愛の妹にその姿を重ねてしまうヒロインとか、いまどきこれあり?のポイントが高い。いい意味、ステレオタイプのドラマ。ひたすら、主人公の格好よさを楽しむ作品だった。

本作も前作同様、つっこみどころ満載のエンターテイメント作品。前作で主人公を震撼させた敵以上に、スゴイ敵が現れる・・って、常に最強の敵が出現する少年マンガと同じ調子のよさ。絶対、新堂冬樹は確信犯。純愛作品や動物作品を売れるツボを押さえ書き、そして売れたのと同じくらい、本作も狙っている。そういう意味では器用な作家か?

前作でガルシアの父親を裏切りマフィオソのカポとなったマイケル。日本から来たヤクザ、カタギリによってもたらされた情報により、マイケルに育てられた冷酷な殺人マシン、ジョルジオはガルシアを消すことを目的に日本へ向かう。カタギリにいいくるめられ、ガルシアに加え南雲組組長、海剛の生命も狙うことなったジョルジオ。海剛、ガルシア、ジョルジオ、三つ巴の戦いがいよいよ始まる・・。

幼い頃目の前で父親が殺され、感情が封じ込められたジョルジオが、ガルシオを殺すことになぜかためらいを覚える。あれ?冷酷な殺人マシン?主人公ガルシアはオメルテ(血の掟)が絶対の行動原理。情けは人を弱くするが、非情は力になる。マフィオソの誇りが、敵に背を向けることを許さない。って、一昔前のヤクザ映画でいう「義理」ですか?計算してるようで、猪突猛進・・。
いや、おもしろいのだ、この作品。いうならば香港ノワール映画のおもしろさ。普通の小説と思って読んではいけない。ただただ、楽しむ。これが、正しい読み方。

壮絶の死闘のあと、朦朧とする意識の中、ガルシアの視界に写った現れたハンドガンを構える男は、敵なのか、味方なのか?
ゆっくりと目を閉じるガルシア・・・

次の作品に続く、な。