チョコレート工場の秘密

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

チョコレート工場の秘密ロアルド・ダール(2005)☆☆☆★★
※海外、児童文学、ナンセス、ファンタジーブラック・ユーモア

大好きな映画監督ティム・バートン映画化(でも、映画館に見に行くかは?)ということで、読んだ。図書館じゃないんだけど、。新訳版。
懐かしい!・・工場の中に流れるチョコレートの川。なんだ、これ?何が混じってるかわからないから、この工場のチョコレートは食べたくないなぁ、と、妙に小生意気な記憶が蘇る(苦笑)。心から楽しんだとというより、うえへっ、げっ、と思いながら読んだ思い出。あ、正解だったんだ。この作品、ブラック・ユーモアだったんだ。

世界で一番のワンカさんの秘密のチョコレート工場へ、全世界から5人だけ招待するというニュースが流れた。ワンカさんの工場のチョコレートを買って、その中から招待券が出た幸運な人だけが招待される。全世界の大人も子ども大騒ぎ。大金持ちの子が、金にあかせてチョコレート買い占め、招待の権利を獲得していく。残りの招待者は、あと一人。
主人公のチャーリーは、とても貧乏な少年。両親と、両親それぞれの祖父母とともに、ふだんはキャベツのスープで暮らす。大好きなチョコレートは、年に一回、誕生日のときだけ。丁度、誕生日にもらったプレゼントのチョコレートを開けてみると・・。残念、はずれ。とっておきのへそくりをおじいさんが出してくれて買ってもらったチョコレート・・。残念、はずれ。
そんなチャーリーが、ひろったお金で買ったチョコレートから出てきたのが、紛れもない、金色に輝く招待券。
チャーリーをはじめとする5人の招待者のチョコレート工場の見学がはじまる・・。

見学中にひとり、ひとりと消えてゆくわがままで生意気で、自分勝手な大金持ちの子どもたち。作品前半の、工場の招待券を手に入れるまでのワクワク感とはうらはらに、後半の工場見学では、明るいけど、どこかブラックでシニカル。いい子でいればさいごは幸せになる、というわかりやすいテーマのはずなのに、ロアルド・ダールの手にかかれば、どこかうすら怖い、ナンセンスストーリーになる。
大人になって読むと、いろいろ考えさせられる。チャーリーって、拾ったお金をねこばばしたんだよね?最後に家族全員が工場にいけるのって、本当にしあわせなこと?もしかしたら、小市民は運命に流されるだけって話?
そう、実は主人公のチャーリーはこの作品で何もしてないのだ。ただ、いい子にしてるだけ。甘い糖衣にゴマされてしまいそうになるけど、ちょっと、なかなかな話なのかもしれない・・。

今回、残念だったのは新訳の翻訳者:柳瀬尚紀氏の翻訳と、そのあとがき。翻訳の手法というのは、大きく分けて、原書をできるだけ忠実に訳す方法と、作者の意向を自分なりに解釈して行う方法、いわゆる意訳。このふたつの手法については賛否両論たたあれど、個人的には前者を買う。対して、本書の翻訳は、後者。
訳者あとがきで、じぶんなんりの解釈で、登場人物の名前を日本風にし、作品のなかにある詩について、自分なり韻を踏んだ作品にしたと語る。挙句、前翻訳者を「わかっていたのかどうか・・」と罵倒する始末。
登場人物の名前は、変えなくても、おもしろい。韻を踏んだ詩は、韻を踏むことにこだわるあまり、リズム感はないし、言葉も古い。これでは、翻訳者のひとり遊び、自己満足、自画自賛。せっかくの、新装、新訳なのに・・。

蛇足:工場で起こる事件は、ナンセンスで荒唐無稽。あ、これは映像化に向いてる作品。映画はとても期待。