FAKE

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「FAKE」五十嵐貴久(2004)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、コン・ゲーム

ネタバレあり。本書、未読の方は注意願う。

とりあえず、☆は3つつけたが不満が残る。五十嵐貴久という作家、期待してるわりに満足させてもらえない。このままでは「交渉人」「安政五年の大脱走」がフロックという評価になってしまう。頑張れ、五十嵐貴久!・・って、勝手だよな。読者って。

幾つかの書評をネットで見る限り、概ね好評。故に、ぼくの書評は期待のしすぎがゆえにということにしておこう。たしかにおもしろくないわけではない。コンゲーム(騙し合い)のやりとりの妙、最後の大逆転、物語の進み方、作品の構成は確かに及第。わくわくして読み進めることができる。でも不満は、違和感。それは、おかしいのでは?
そこをおかしいと思うか、思わないか、そこがこの作品を楽しめるかどうかのポイントなのかもしれない。

息子をなんとか大学に合格させてほしい。さえない中年私立探偵、宮本のもとに、旅行代理店に勤めるひとりの男、西村一穂が現れた。息子の昌史は学科試験さえ通れば、東京芸大に合格できる。その才能は、予備校の講師のお墨付き。いかんせん学力がまるっきり不足している。天は二物を与えぬ。浪人してはいるが、今年の受験もとても覚束ない。そこで、依頼をお願いしたい。あれほど秘密にしておくように念をおしたはずの宮本の叔父から話を聞いたという。そう、宮本は前年、叔父の頼みで甥の受験を成功させていたのだ・・。仕方なく依頼をひきうける宮本。カンニングの方法は最新電子機器を使い、試験中の昌史から送られる問題を、親友の忘れ形見、現東大生の加奈が問題を解くといういたってシンプルな方法。試験は始まり、最後の教科まで滞りなく進んだ。間もなく無事終了というところで、すべてが終わった。宮本と加奈が逮捕されたのだ。逮捕されたことで判明したのは、実は昌史の父親は、旅行代理店のサラリーマンではなく、港区の区議であった。地上げに狙われる老人ホームを、一人で守る西村を邪魔に思う、暴力団の手の込んだ謀略だった。清廉潔白を信条とする西村は、息子の事件により、区議を辞職。まさに彼らの狙いどおり。
物語は、第二部に移る、そう、騙されたら、騙し返す。全てを失った宮本が、西村親子、加奈を仲間に、自分たちを陥れた首謀者沢田公博に対し復讐を図る。10億円を騙し取れ!沢田のカジノを舞台に、10億円をかけた勝負が始まる・・・。

以下ネタバレあり。

冒頭の紅茶を入れる宮本の姿。紅茶の薀蓄からはじまり、ジャンピングの様子まで仔細に描く。ディティールにこだわる。コンゲームを描くにおいて、ディティールにこだわることは不可欠。イカサマをいかに本当のように思わせるか、嘘を本当のように言い、リアリティーを構築するためには、真実を多く散りばめる。本書では、紅茶の薀蓄、最新の電子工学商品の知識、カジノにおける心理学、必勝法、種々のイカサマなどを散りばめた。リアリティーを構築するための小道具は確かに用意できている。しかし、が故に、逆に嘘が白々しく見える。それは、読者としての僕の資質の問題かもしれない、が。

なぜ沢田はカジノ店の女の子さえも自店のオーナーとして認知するような、そんなヘマをしているのだろう?
非合法カジノを、同一店舗でやっていれば、遅かれ早かれ警察の手入れがあることは、ミステリー好きなら常識。蛇蝎のごとく狡猾な沢田が、自らを表舞台に身を晒すのはちょっとおかしくないか?身代わりの店長、オーナーを立てるくらいがミステリーの常識。それは、最初の不正受験で、自ら出演しているあたりも同じ。物語として、宮本VS沢田の構図を如実に浮かび上がらせたいという気持ちはわかるが、それはいかがなものか。ぼくは、まず、ここでひっかかってしまった。
そして、この作品の大逆転トリックがあれでいいのか。相手の指先の力の入れ具合で、役の出来具合を思い図ることのできる沢田が、大逆転のあのネタに気づかないなんて・・。まさに沢田の目は節穴?自分の店、だろ。いまどき小学生向けの探偵クイズしか見かけないような、あのトリックがここで出てくるとは思わなかった。
小学4年のテストでさえまともに点がとれるかどうかわからないと、予備校の教師に言われてた昌史なのに、あるいは清廉潔白で不器用な西村元区議だったのに、西村親子のキャラクター設定が作品の中でぶれている。突然、別人になっちゃたみたいな。コン・ゲームの物語の中で読み手が思い込んでいた人物(キャラクター)が、実は全然違うというのはよくあること。しかし、それはあくまでも作家のミスディレクションによって読み手が勝手に思い込む場合。本作品では、西村親子がもともと、あのキャラクターであったのなら、本来この物語が成り立つハズがない・・。
細かく言えば、いくらなんでも客商売の探偵事務所がエレベータなしの8階というのは、いかがなものか?いくら、零細事務所であれ、競争過多の時代において、肉体的に客が足を運ぶのを躊躇する場所に事務所を構えるのはまずありえないのでは?

と、思うのは、僕だけなのかもしれないが・・。

もう少し、もう少しで、すごくいい作品になりそうなのに・・。残念。
最後の宮本と加奈の物語もとって付けたよう。ありがちな描写、で終わっている。

五十嵐貴久には、まだ期待したい。故に敢て苦言を述べた。頑張れ五十嵐貴久

蛇足:紅茶というキーワードは、ぜひ物語の重要なポイントにして欲しかった。薀蓄だけで終わってしまったのは残念。
蛇足2:コンゲームでは真保裕一の「奪取」がオススメ。あれは、本当によくできていた。