とっても不幸な幸運

とっても不幸な幸運

とっても不幸な幸運

「とっても不幸な幸運」畠中恵(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、酒場、エブリデイマジック(?)(ファンタジー

2001年「しゃばけ」で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀作を受賞、デビューの作家。興味はあれど、星の巡りか、なかなか読む機会に恵まれていなかった。時代物のちょっと洒脱な作品をイメージしていたら、今回は現代物。新宿駅東口、伊勢丹近くにある(妙にリアル)とあるビルの地下にある「酒場」という名の酒場を舞台にした作品。広義な意味で、エブリデイマジックというファンタジーの一分野にはいるかもしれないが、基本的には一般小説、連作短編集。序章、6つの短編、終章からなる。

〜序章、第一話「のり子は缶を買う」、第二話「飯田はベートーベンを聴く」、第三話「健也は友の名を知る」、第四話「花立は新宿を走る」、第五話「天野はマジックを見せる」、第六話「敬二郎は恋をする」、終章〜

まず表紙で損をしている。本作の舞台となる、アンティーク家具の並ぶ、居心地のよい酒場、バーカウンターかなんかのイラストないし写真かなにかのほうがよいのでは?帯に惹句も微妙にずれてる。というか、最近作品の本質と離れた、上っ面な惹句多くないか?よく出来た「映画の予告編」のように、興味をひかせるにはいいのだが、作品を伝えていない。そんな帯が多くなったような気がする。

「酒場」は、料理がうまく、腕っ節の強い、大男の二代目店長小牧洋介と、常連だけの集まる店。店の扉は堅牢で、地味。地下の店もあるせいか、初見ではなかなか入りにくい。そんなこんなで、常連が入り浸る、常連たちには居心地のいい店。時々、洋介を交えて、店の家具がぶっ壊れるようなぶん殴りあいも起こるけど、常連客も慣れたもの、いつの間にやら喧嘩に参加したり、カウンターの影に隠れやり過ごしたり、なんだかんだ、楽しく過ごす。店には、健也という髪の毛を赤と金の二色に染めた、22歳のウェイターも働いている。今日も、常連客が集まって、わいわい、くだらない与太話で盛り上がる。

レモン・ハート」古屋三敏という、バーを舞台にしたマンガがあるが、それに近い雰囲気がある。酒場という、ちょっとだけ普通の生活から離れた大人の世界を舞台にした物語。少しせつなく、少しあたたかい物語。尤もこの作品「とっても不幸な幸運」の登場人物たちのは大人なのは年齢だけ。中身といえば・・。いやいや、常連客だけで過ごす酒場は、大人が、自分に戻れる大事な世界なのかもしれない。こういう言い方は失礼かもしれないが、ちょっと女性が書かれたとは思えない小説だった。なんせ、常連は男だけ、そんな世界をとても、上手に描いている。


物語は、洋介が突然ひきとることになった13歳の義理の娘、のり子が「酒場」にもって来た「とっても不幸な幸運」という缶から始まる。100円ショップで売られているふざけた名前の缶を「酒場」で開けると必ず事件が起きる、という形式の短編集。常連客、ウエイターをそれぞれ主人公に変え、軽く、洒脱な物語が語られる。大作ではない。気軽に読める作品。すごいオススメではないが、ちょっと読む分には最適。そんな作品。

ただ、六話の初代店長と洋介の話、終章はちょっといただけない。六話では、同じ缶詰がキーワードとなるが、それも「幸運も不幸も、缶の中にある」というキーワードを出し、この店と「缶詰」の関連を描くのだが、やはり「とっても不幸な幸運」という缶は、それだけでよかったのでは?終章で、昔なじみの常連が久しぶりに戻ってくる話しも、余計だった。


蛇足:22歳の大学生ウェイターが、13歳の少女のり子にちょっと想いを寄せるのは、いかがなものか?逆なら、まだわかるのだが・・。