ロズウェルなんか知らない

ロズウェルなんか知らない

ロズウェルなんか知らない

ロズウェルなんか知らない」篠田節子(2005)☆☆☆☆★
※[913]、国内、現代、小説、村おこし、UFO

篠田節子氏を読むのは久しぶり。最後に読んだのは「弥勒」だったかな。「女たちのジハード」「斎藤家の核弾頭」「アクアリウム」「ハルモニア」などなど色々なジャンルを一定以上のレベルで発表してきた作家。とくに「夏の災厄」「絹の変容」は忘れられない。どのジャンルも器用にこなす作家。本作もしっかり仕上げている。

鏑木というストレンジャーの到来によって、変化を見せる町、駒木野。宮沢賢治の「風の又三郎」に代表される、外界からの来訪者との邂逅を通じ、変化し、成長するストレンジャー神話の形式。尤もこの鏑木という曲者、駒木野を去るつもりはないようだ。
本文中で結局触れられてなかった「ロズウェル」とは何か?1947年、アメリカ合衆国ニューメキシコ州ロズウェルに未確認飛行物体が墜落し、その際米軍が異星人の死体を回収、事件を隠蔽したとされるロズウェル事件のこと。おそらく誰もが一度は耳にしたことのある事件。このタイトル、最終章の章題にもなっているが、なるほどねぇと納得、にやり。

このままいけば、2030年には人口が0になってしまうという過疎の町駒木野。新幹線の開通、高速道路が整備される前までは雪質も悪く、雪量も少ないが、首都圏に近いというだけで客を呼べたスキー場があり、それが故に殿様商売をし続けてきた町の人々。しかし、時代も変わり集客も見込めなくなり、さらに頼みのスキー場も閉鎖され、駒木野は確たる収入のあてもなくなり、住民が次々と町を出て行く状況。そうした中、青年クラブの面々は、町の再活性化を目指す。
少しでも住民を増やそうと、家付きの土地を賞品にしたカラオケ大会で優勝したのは自称文筆業の鏑木。賞品のあばら家に臆することなく、さっそく住み着く鏑木。そう、ちょっと変な奴。この男のアイデアによって、町の再活性化は次々と変な方向に進んでいくことになるのだが。
UFO、四次元ゾーン、ストーン・サークル、おもいつきで語られる伝承、オカルト風味の味付けが、若者の心を捉えた。クチコミから、怪しげなマスメディアに広がり、駒木野の町に人が集まりはじめた。カリスマ・タレントもやってきた。ひさびさの集客に沸く駒木野。
しかし、そうした駒木野の盛り上がりに対し、やらせ報道が全国紙に掲載され、今度はパッシングを受ける。肩身の狭くなる青年クラブのメンバー。さらにメンバーの中心人物である靖夫は遺跡の出土品を勝手に発掘し、役所に届けなかったということで、逮捕までされる始末。そんな、駒木野に明日はあるのか・・。

最後は、大逆転(小逆転?)ハッピーエンドで終わるのだが、この作品の最後には、どこか寂寥感が残る。
それは、若者(?)たちが手作りで行い、うまくいったはずの町おこしが、一過性のものにすぎないかもしれないということに、読者は気づいているからだ。いつまでもこのブーム、興味が続くものかどうかわからない。
この先、この村が観光を主として生きながらえるためには、旧態依然の考え方の年寄りたちの意識を根本から変える必要があるだろう。お客が来ることが当たり前だったこと、こんなにしてやっているのに・・という意識を根本から改めることができるかどうか。固定観念から脱し、今のお客さんが喜ぶものは何か、どこにneeds、wantがあるか、お客の側に立った見方、施策をとれるか、そこにかかってくるだろう。それはこの村だけの話でなく、ぼくの仕事においても同じなのだけれど。

久々に万人にオススメできるということで☆は4つ
しかし、よくまとまって面白い作品ではあるが、器用にまとめすぎた感もある。
町の物語であるが故というワケではないが、各キャラクターが弱い。特に主人公、民宿の若旦那靖夫の人物が見えない。村の若手たちも中盤までは、誰が誰であるのか区別がつかない、というより誰であっても構わない。
霊感治療ともてはやされ困惑する、真摯に整体行おうとする清水。オカルトレポーター風見さゆりを守った朴訥な青年、的孝一。最初のツアーのお客さんと、恋仲になってしまう徳雄。外から来てミルキーウェイというペンションを営む岡田、和種馬の観光牧場の牧場主川崎。中盤以降、それぞれが別々の悩みや、思惑を抱えて動き始めるが初盤はちょっと混乱した。
唯一、初盤から光っていたのは鏑木。奥田英朗の「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」の主人公 トンデモ精神科医伊良部を彷彿させるかき回しっぷり。傍若無人ぶりが気持ちいい。
また、あまりにも起承転結という物語の形式に嵌りすぎているかもしれない。
しかし、確かに面白い。読んで、間違いはない。

蛇足:最後の未確認飛行物体の描写は、お約束ごととはいえ、まさに蛇足。いや、エンターティメント作品としては、仕方ないのだろうが・・。
蛇足2:ネットの書評で、村おこしというテーマより「オロロ畑でつかまえて」荻原浩に似てるという数多く見受けた。残念ながら僕は未読なのだが、情報として記しておく。