2005年のロケットボーイズ

2005年のロケットボーイズ

2005年のロケットボーイズ

「2005年のロケットボーイズ五十嵐貴久(2005)☆☆☆☆★
※[913]国内、現代、小説、青春、キューブサット

久々にやったね!五十嵐貴久。おもしろかった。これは、確かにおもしろかった。

読書の楽しみのひとつに、自分の知らなかった世界を、知識として、蘊蓄として知るということがある。それが物語とうまく絡み合った場合、その作品を読んでとても得した気分になる。一挙両得、一石二鳥。また、丁寧な取材で書かれたという姿勢が見える作品はそれだけで好感を持てる。逆に、安易に作家が嘘を書き、それが故に冷めてしまうこともある。五十嵐貴久の場合、本作が前者、前作「FAKE」 http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/10743680.html は後者といったところか。尤も、本作についてもつっこみどころがないわけでないし、また本当の理系の方が読まれたらどうかはわからない。しかし、僕は気持ちよく読めた。キューブサットという地味で馴染みのない題材を選んでくれたおかげで、心から青春小説を楽しむことができた。キューブサットの知識は・・う〜んん。

そう、これはとっておきの青春小説。いろいろな欠点を抱えてはいるが、荒削りで一気に読ませる勢いを持ったわくわくどきどきの青春背小説。いいなぁ、青春って。

蒲田の小さな町工場の一人息子、文系のはずなのに高校受験を目前にして遭った交通事故のために、私立王島工業高校に通うことになったおれ梶屋信介、通称カジシンが主人公。ひょんなことから、学校の名誉にかけてキューブサット設計コンテストに参加させられる羽目になった。キューブサットって?キューブサットとは10センチ四方の小さな立方体の小型衛星のこと。友人のゴタンダに相談し、自分に絶対の自信を持つ頭だけはよい大先生と呼ばれる同級生をだまくらかし、設計図を描いてもらった。応募した設計図は、優秀賞受賞、万歳!。しかし、そのあとがいけない。賞金をあらかた使い果たした頃に知ったのだが、入賞者は秋に行われるカムバック・コンテストに実物のキューブサットを作って参加しなけらばならないのだった。もらった賞金には、キューブサットを作る材料費をも含まれたのだという。慌てたおれたちは、守銭奴の大先生に泣きつきキューブサットの実物を作ることになった。コンテストまでの期間は短い。おれたちは友人たちの協力のもと、ひと夏を潰してキューブサット作りに青春をかけるのであった。
マンガの登場人物たちのような友人たち、天才スロッターで、頼まれるとイヤといえないドラゴン。「おぉ」と「あぁ」しか言えないが、気は優しくてガタイのいい正統派の不良、翔さん。おれの中学時代の友人、いや実はつきあっていたこともある、いまは高校も行かず家業の秋葉原にある、マニアが集まる電器屋を手伝う彩子。彩子にベタ惚れなヲタク大学生オーチャン。そして町工場の創業者であるおれの祖父ジジイたちの協力でキューブサットはなんとか完成。TV中継もあるコンテストに参加することができた。
なぜだ?!コンテストの結果は散々。おれたちの夏は終わった。・・・・はずだったが、沈着冷静でスタイリッシュなはずのドラゴンが、もう一度やろうと言い始めた。TVの取材も、賞金もなにもない、どころかすべて自前。キューブサットを宇宙に運んでくれるロケットの費用、数百万円まで出さなければならない、そんなの夢物語だ。
なのに、なぜかおれたちはまたキューブサット作りに精を出していた。新たな仲間、数学については天才的頭脳を持つが、自閉症の同級生レインマンを仲間に加えて、。
さて、おれたちのキューブサットは無事、宇宙に飛び出て、地球の軌道に乗ることができるのだろうか・・・。

「何の役にも立たないことに頑張れたからステキなんじゃないの。役にたつことや立派なことはね、そんなものは誰にもできるの。下らないこと、つまらないことに一生懸命になるから偉いんじゃないの」
そう、青春とは、役にたたない馬鹿げたことにどれだけのめりこむことができたのかということ。それが仲間と一緒なら、最高だ。しかし、このセリフ、カジシンのお母さんが語るっていうのは青春小説としてはどうなんでしょう?五十嵐貴久、。

蛇足:どう考えても地味で、鳥人間と、同列に並べることができるとは思えないキューブサットに、TV局が興味を示すとは思えない。ましてや2,000万円の賞金って?!タイトルどおりのロケットならまだしも、なのだが。とはいえ、さっそく、この本のタネ本のひとつ「上がれ!空き缶衛星」川島レイを図書館に予約してしまった。
蛇足2:大学生であるが、学生作成のキューブサットのホームページのURLを参考までにあげておく。
東工大cubesat CUTE-I :[ http://lss.mes.titech.ac.jp/ssp/cubesat/ ] 東京大学cubesatプロジェクト : [ http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/cubesat/ ]
蛇足3:やはり少年たちの夏、青春といえば「夏のロケット」川端裕人[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/1889720.html ]。オススメ。
蛇足4:カジシンといえば梶尾真治だろ。本作品ってどこか関係あるのか?