浄土

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浄土

「浄土」町田康(2005)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、文学、短編、シュール、ナンセンス

ネットでちょっと話題の作家。気になり手を出してみた。玉石混淆の短編集。シュールでナンセンス。好きな人は好きなんだろう。全七編読んでみて初めてちょっと気になった。でも、ぼくには合わない。自分から手を出して読もうと云う作家ではない、作品ではない。書物に、物語や秩序を求める人はきっと合わないだろう。
「犬死」「どぶさらえ」「あぱぱ踊り」「本音街」「ギャオスの話」「一言主の神」「自分の群像」の独立した七編からなる短編集。あれ?本書タイトルの「浄土」って?

「犬死」
ある不運な作家の物語。運命を告げてくれる占い師を訪ねて行こうとするが・・。
※え?何。これで終わり?

「どぶさらえ」
町内会費を滞納している男。町内会では仲間はずれにされ、ヘドロとゴミで悪臭を放つどぶ川を、ひとりどぶさらえをさせられる羽目に。ビバ!カッパ!viva!kappa!精神的、抽象的どぶさらえ。両手を高く掲げひらひらさせ舞う俺の後ろに汚辱の精が列をなして踊る。
※自暴自棄の気持ちはわかるが、え?それで?

「あぱぱ踊り」
エケメに連れて行ってくれと俺に頼む奴。貧相な女二人がその男の横で踊り狂っている。俺って凄い人間なんです。男が語る。どんな凄い奴なのか確認するために付いて行く俺。エケメに着くが、男は誰からも認められない、そんな男の最期の姿。
※で?
・・・正直、この辺りで本書を放り投げたくなった。

「本音街」
その街に来たら人々は本音で生なければいけない。いや、本音で語り、生きることを許された街。世辞も追従も必要ない。
※この設定はおもしろい。もう少し、物語を膨らませられるよう気がする。

「ギャオスの話」
ある日、中野にギャオスがやってきた。ギャオスは人間を食い、とても臭い屁、糞をする。ギャオスがいつまで日本にいるか、誰も知らない・・・
※題材としてのギャオスはおもしろい。しかし「動物園の象がいた」と書かれてもそれは文学ではない。せめて「動物園の象は孤高にその姿を晒していた」程度になってこそ、文学。

一言主の神」
一言主が言葉にしたものは、その姿を具現化する。幼武尊は、仲間となった一言主がなんでもかんでも具現化し、散らかし放題にすることが気に入らず、喉をつぶして土佐に流してしまった。最後に残ったのは、ボンベイ・サファイヤ。
※古代の神話を元にしたパロディ。古代世界に、現代の事物を出現させるおもしろさが理解できない。「森ビル」とかおもしろいか?

「自分の群像」
どの会社にも役に立たない社員はいるが、OL方原位多子の同僚玉出温夫は本当にまったく使えない。嫌味な同僚似田のおかげで多位子は、温夫の尻拭いで雑用ばかりたまる日々。疲れのせいか、肩痛と頭痛のとれない多位子。元同僚に教わった治療師に、悪いものが溜まっていたので、循環させたと言われる。翌日、仕事中、爪の先からどろどろと黒い物が出てくる。ぱりぱりに乾いたそれを、海苔と称して温夫に食べさせる多位子。すると温夫の首がぐるぐる回りだし・・。
※「本音街」に続き、小説らしい小説。筒井康隆を彷彿させる。役立たずがいなくなっても日常は続く。

「本音街」「自分の群像」があればこそ、何とか読了できた一冊。
「ごめんなさい、お手上げです」といって白旗をあげるべきなのか、はたまた、「こんな作家、作品をありがたがって増長させていいのか」と喧嘩を売るべきか悩むところ。無意味な争いを避け、臭いものに蓋をして小市民はお茶を濁しておくべきか?
・・どうでも、いいや。