マーリン3〜伝説の炎の竜

伝説の炎の竜 (マーリン 3)

伝説の炎の竜 (マーリン 3)

「マーリン3〜伝説の炎の竜」T・A・バロン(2005)☆☆☆★★
※[933]、海外、古代、児童文学、ファンタジー、アーサー伝説

ほとんど、意地で読み続けている。このマーリンのシリーズ。
「マーリン1〜魔法の島フィンカイラ」
http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/12116484.html
「マーリン2〜七つの魔法の歌」
http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/13835020.html
に続く三作目。本シリーズはアーサー王伝説の偉大な魔法使いマーリンの子供時代を描く五部作のシリーズ・・らしい。
3巻目に至り、やっとマーリンが少し成長したかなという感じ。1巻、2巻で、過信したり、自分勝手だった面が影を潜め、フィンカイラを守るため、自分の命を顧みず、冒険の旅に出る。マーリンもやっと、正統派ファンタジーの主人公らしくなった。読み手がが気持ちよく主人公に感情移入し、読める作品になった。尤も、僕があまり評価していない「ハリー・ポッター」のシリーズも、巻を進むに連れて、おもしろくなっているという話しもあるので、シリーズは単独の作品で判断すべきでないのかも。いや、しかし、やはり書物はシリーズであっても、一作、一作が単独の作品として出されたものであるならば、一作、一作がきちんと評価に値する作品であって欲しい。
やっと「読める」作品になったと書いたが、個人的なジャンル分けではこの作品はまだ「(良質な)ファンタジー」には手が届かない「(こども向けの)児童文学」。個人的な言葉の定義では「児童文学」はまず子どもが読めることを前提とし、さらに力のある作品は大人が読んでも魅力ある作品。対して「ファンタジー」は、読者対象の問題でなく、物語のジャンル。良質の児童文学でありつつ、良質のファンタジーという作品は存在する。しかし残念ながら本作品は、大人の鑑賞にまで堪えうる力には足りない。だいぶ、よくなってきたとは思うが・・・。

フィンカイラの名だたる魔術師たちが、儀式のために楽器を作ってきた<力呼びのナナカマド>の木の下で、マーリンも詩人ケアプレの指導のもと、サルテリーを作っていた。魔術師は、魔法の楽器を自らの手で作り、それを奏で、魔法の力を呼び起こすことができたとき、初めて魔術師となる。その機会はたった一度だけしか与えられない。かってのどの魔法使いよりも短い期間で魔法の修行を終えたマーリンであるが、この儀式を無事に乗り越えることができるかは、だれもわからない。いよいよマーリンがサルテリーをかき鳴らした。すると、サルテリーは突然燃え上がり、その中心から小人(ドワーフ)族の女王、魔術師ウルナルダの顔が浮かんできた。以前の約束を果たす時が来た、今わが民は助けを必要としている、ただちにマーリンひとりでドワーフの国へ来るのだ。ウルナルダの話によれば、フィンカイラの北にある<ロストランド>の眠り竜、バルディアグが目覚めたという。バルディアグはその昔、マーリンの祖父、偉大なる大魔法使いトゥーアーハが長い戦いのすえ、追い返し、眠りにつかせていたはず。いったい何が起きたのか。そして、儀式の最中に、燃え上がったサルテリーは炭となってしまったが、マーリンの儀式の結果は、成功だったのか、それとも失敗だったのか。
ケアプレによると、トゥーアーハの竜との戦いを伝えた詩、「竜眼譚」が、十年以上の歳月をかけ、失われたかけらが集められ、つながれ、丁度形となったところ。まだまだ謎が多いその詩によれば「遠い日に、激しく戦った敵の末裔のみ」が竜をとめられる、しかし「ともに討ちはてる」。まさにトゥーアーハの孫であるマーリン。しかし、伝承の詩の通りなら、竜もマーリンも共倒れになってしまう。
竜の炎よりフィンカイラの平和を守るため、旅立つマーリンの物語。

魔法の存在全てを悪しきものとする<正義団>の存在が明らかにされる。そして彼らが作った魔法使いの魔法を封じ込める<封魔力>を持つ、恐ろしい生き物クリリックスがマーリンを狙う。エレモンとハーリアの鹿人族の兄妹との出会い、そして別れ。闇の老婆ドムヌとの再会。新たな登場人物や、シリーズを通してお馴染みとなった登場人物を交え、物語は進む。

決して間違いのない、王道を行くファンタジーのパターンを踏むこの作品だが、今回も時間の制約という条件をうまく作品に生かしてない。前回は月のひとめぐりという時間制約、今回は7日間という制約が旅の条件としてあげられていたが、ただ時間に追われているという印象。もう少しうまく物語にできないのか。
また、黒い牡馬イオンを語る際、突然、子どもころの父親との記憶が語られるが、マーリンって、お父さんとの記憶がほとんどないはず。齟齬がないか?加えて、今回マーリンが持つ剣が、偉大なる王に捧げられる運命にあると語られる。アーサー王の伝説を指すのだが、これも決してこの物語りの本質に触れるものでなく、唐突。アーサー王伝説のマーリンの子ども時代の作品ということで、どこかにアーサー王の伝説を交えなければいけないと思ったのだろうが、。この作品(シリーズ)は本当に「マーリン」という魔法使いが主人公である必要があったのかと、今更ながら感じる。尤も、それが「売り」のポイントなのだから、今更何をかいわんやだろうが・・。

つい先日、同じアーサー王伝説をモチーフに、「光と闇の戦い」を描く「闇の戦い」シリーズの第一作「光の六つのしるし」スーザン・クーパーhttp://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/15261856.htmlを読んでしまったせいか、どうしても、この作品の弱さ、深みのなさを感じずにはいられない