マーリン4〜時の鏡の魔法

時の鏡の魔法 (マーリン 4)

時の鏡の魔法 (マーリン 4)

「マーリン4〜時の鏡の魔法」T・A・バロン(2005)☆☆☆★★
※[933]、海外、古代、児童文学、ファンタジー、アーサー伝説


ついこないだ「マーリン3」を読んだばかりなのだが「4」である。意地で読み続けているこのシリーズだが、いよいよ残るはあと一冊「5」のみ。2005年11月現在、日本ではまだ出版されていないが、間もなくか。本作「マーリン4」は「5」への序章といった作品。冒険は行われたが、最後の敵は逃げ去った。最後の巻で、全ては解決されるのか。
1,2,3,4と振り返るとマーリンはどんどん成長している。始めのころの過信やうぬぼれの少年が、謙虚さと、使命をわきまえた青年(にはまだ遠い?)になってきた。成長する若者の姿を読むのはシリーズものの醍醐味。しかし、本作も前巻以上の深みはない。いい意味で、悪い意味でシリーズを通し、均質なクォリティーは保たれている。


物語はマーリンが魔法の練習をしているところから始まる。前作で登場した鹿人族の娘ハーリアと語らうマーリン。いい雰囲気になりかけたところで現われる、やはり前作でマーリンが命を助けた竜の子グウィニア。そんなときに、かんだかい悲鳴が聞こえた。さけび声の聞こえた方へ向かうマーリンたち。
そこにいたのは、傷ついたフィンカイラのめずらしい生物バリマグ。治療をほどこすマーリンに対し、被害者意識の激しいバリマグ。そんなバリマグを<運び>の魔法で故郷へ送りとどけようとするマーリン。しかし魔法は失敗、マーリン、ハーリア、バリマグは死霊が村を襲いはじめた<おそれ沼>に吹き飛ばされたのだった。
<おそれ沼>でなにかが起こっている。早く逃げようというハーリアをの言葉を遮り、その正体を探ろうとするマーリン。そしてマーリンが持つ運命の<剣>が奪われた。<おそれ沼>で起こっている何かの正体と、奪われた<剣>を求めてマーリンの探索が始まる。途中<おそれ沼>の下にあるバリマグの故郷<ぬーばらしき沼>を経て、旅は続く。親方に頼まれた<魔法の鍵>を探し求める少年エクターとの出会い。新たな同行者が加わった。そして恐ろしい虫に襲われるマーリン。血縄虫が身体に入り込み、心臓に巻きついたのだ。癒しの技を持つマーリンの母のもとへ早く戻って治療すべきだと主張するハーリア。しかし、それでは遅すぎるかもしれない、マーリンの奪われた<剣>は王の剣であり、運命の剣である、今すぐにでも取り戻されなければならない。
探索を続けるマーリンは<魔法の鍵>を手に入れた。そのとき死霊たちが現われた。死霊たちは何者かの魔法で鎖に縛りつけられ奴隷にされていたのだ。死霊たちのあいだから進み出てくるものがいた。妖女ニムエ。<鍵>を渡せと迫るニムエ。<鍵>は渡す前に一度だけ使ってもよい、呪いを解くこともできる、ニムエはマーリンにそう語る。親方のもとへ持っていくんだ、言うことをきいちゃだめだ、エクターは叫ぶ。しかし、マーリンは・・。
自分のためでないことに<鍵>を使ったマーリンだが、<鍵>の力は失われ、そして血縄虫はマーリンの心臓をどんどん締め付ける。エクターはマーリンを助けるために<鏡>を通り抜け。親方のところへ連れて行く決意した。親方なら助けられるはず。鏡を通り抜け、親方に出会うマーリン。雪よりも白い長い髪と髭を持つ老人、その正体は?そしてエクターの正体は?
今度はひとりで鏡を通り<おそれ沼>へ戻るマーリン。その途中、マーリンは悟る「ぼくのさがしているものは、ぼく自身のなかにある-ぼくの内側のいちばん暗い場所、(中略)ぼく自身と影がひとつとなる場所・・・。」(P307)。本当の自分、自分の進むべき道は自分の中にある。
そして<おそれ沼>に戻ったマーリンに、ニムエとゴブリンとの死闘が待っていた。竜の子グウィニアも駆けつけたが、戦いは劣勢。マーリンは勝ち抜くことができるのだろうか・・。


新たなキャラクター、バリマグ。鏡を通り抜けるときの注意を教えてくれた目のない猫の登場。そして「マーリン1〜魔法の島フィンカイラ」で<死衣城>を滅ぼすことに手を貸してくれた巨人シムとの再会。決して倒したとは言えない、ニムエの存在。あくまでも次作へのプロローグといった感じ。
いよいよ次は最終巻。シリーズの最後の敵、悪の神リタガウルとの戦い、そしてマーリンの父親はどうなるのか。数々のキャラクターと、すべての謎を解決し「マーリン」シリーズ5部作は大団円で終えることができるのか。期待というか、不安というか、少し風呂敷を広げすぎている気がするのだが・・大丈夫だろうか?


蛇足:マーリンと親方との話のなかで、アイスクリームくらいは許せるのだが、ヘリコプターとかはどうなだろう。ちょっと、やりすぎ、興醒め。魔法の世界が溶けていく・・少しだけ、そんな気がした。