はなうた日和

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はなうた日和

「はなうた日和」山本幸久(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、短編集、世田谷線沿線

本読み人仲間mamimixさんオススメの前作「笑う招き猫」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/6231142.html ]で第16回すばる新人賞でデビューした山本幸久の二作目。やっと読むことができた。早くも三作目「凸凹デイズ」、四作目「幸福ロケット」を上梓、ネットでも評判は良いよう、期待して読んだ。
世田谷線をモチーフにした連作短編集。ただ、連作というほど作品ごとに繋がりはない。キーワードとして「世田谷線」「世田谷もなか」「超絶戦士キャタスロフィン」「散歩代行業者イチニサンポ」があるといったところか。
「閣下のお出まし」「犬が笑う」「ハッピー・バースデイ」「普通の名字」「コーヒーブレイク」「五歳と十ケ月」「意外な兄弟」「うぐいす」の八篇からなる

以下、八編全話のあらすじ。未読者は注意願う!!


「閣下のおでまし」
母親と喧嘩した小学五年の一番は、泣きながら世田谷線に飛び乗った。離婚した父に会いに行くために。そらで覚えた住所のマンションの父の部屋にいたのは、同じ年齢のハジメという少年。父が今つきあっている女の人の子どもだった。ハジメは一番のことをよく知っていた、父は何かというと、一番をひきあいに出していたのだ。でも、一番だって父のことを知りたかった、身近に感じたかったのだ。
別れた父親を間にはさんだ、同じ年齢の男の子の交流。
父は本書のもうひとつのキーワード「超絶戦士キャタスロフィン」のスカイスイカ閣下役の俳優だった。


「犬が笑う」
「スナックとき」に勤める陸子には大事な思い出があった。会社に勤めていたときの上司ソラヲとの思い出。しかし、ソラヲは病気で亡くなってしまった。そんなある日、陸子に似た女性が陸子を探しに店に来たとママが言う。果たしてその女性はソラヲの妻であった。陸子がソラヲに宛てた手紙を持ってやってきたのだ。
店の常連で女の一人も満足にくどけない植木屋の親方、河田クンとの予感。


「ハッピー・バースデイ」
定年を目前に控えた虹脇部長は、ある日部下の女性が相談事を持ちかけられた。副社長を殴って欲しい。最後の日、挨拶を求められた虹脇は、副社長のほうへ向かって。
若くしたたかな女性に翻弄される男性たち。昔馴染みの取引先の社長と虹脇の交友。


「普通の名字」
離婚して、二人の子どもを育てるミトコ。アルバイト先の「ガヤガヤ雑貨」の共同経営者の柴谷さんの趣味で、お見合いをする羽目に。ある日お見合いの相手である山田さんが店にやってきた。
母が女に戻るとき。


「コーヒーブレイク」
織部は小さな広告会社の新入社員。少しだけ卑屈になっていたのかもしれない。
「世田谷もなか」のパッケージデザインの会議中、ふと窓から外を眺めると、散歩に出した犬に逃げられた男の姿が目についた。思わず会議を飛び出し、犬を探す手伝いをする織部。男は、犬の散歩の代行業者であった。
つきあっていた彼女、美人で頭が良い大学院生の香寿美に突然ボストンに留学されて以来、二ヶ月。今日の物語を彼女に話したい、そして・・。


「五歳と十ケ月」
三十を過ぎているのに、年齢を幾つもサバを読み、グラビアアイドルの仕事をするミドリ。ある日、デパートで中学時代の同級生に出会った。甘酸っぱい思い出。彼はもはや結婚して、五歳になる娘を連れていたのだった。その娘、小雪コユキ)にサインを求められて・・。少し哀しい女の話。


「意外な兄弟」
新聞用紙課から包装用紙課に異動した沼野は、十年営業しているが、いまだに顧客と満足に会話ができない。そんな沼野に気をかける新しい課の上司、須永。同期の水村は、研究室の準リーダーになるらしい。彼女は、なぜか結婚式に数人しか呼ばなかった会社の人間のなかで、沼野を唯一の男性客として招待してくれた。今はバナナの皮を利用した紙の開発をしているそうだ。
土曜日、同じ美大の同期で、特撮愛好会の仲間4人で集まった。全員下戸で未婚で一人暮らし。ときおり饅頭をそれぞれ持ち寄り集まり、特撮やアニメについて語る。決して女の話はしない。しかし、その日は違った。結婚した奴、実家にもどる奴。
仲間と別れた沼野は、休日の自分の部屋で「キャタストロフィン」の主題歌を口ずさみながら、企画書を作成する。


「うぐいす」
老女サトヨはひとり、道端に立ちつくしていた。情報誌にのっていたバナナのまんじゅうを求めて、家を出たのだが、迷ったらしい。交番に保護されたが、徘徊老人と間違われ、悔しくて噛みついてやった。
先立たれた夫、次郎さんの作業場を片付ける息子。子ども部屋にしたいのだ。
次郎さんとの思い出の場所がどんどんなくなっていく。外出時に、嫁が用意した散歩代行業者の男を振り切り、世田谷線沿いをひとり家の方角に歩くサトヨ。
愛した人の思い出がこの世から消えてしまうのが悲しくてならないのです。


正直、期待したほどの出来ではなかった。玉石混交、いいものもあれば、それほどでもないものもあった。一話、二話、三話と、調子よかったのだが、四話で疑問、五話は平均点、六話も?、七話で盛り返し、八話はわかるんだけど、どうかな。
一冊の本としてみた場合、連作のようで、実は連作でないのが残念。特撮番組「キャタストロフィン」をテーマにした、一話、七話が光ってる。三話のしたたかな若い女性に翻弄される男たちの話も良い。全体的には、二両編成の世田谷線ののどかな雰囲気、冬の日だまりという雰囲気をもった作品。現代でありながら、ちょっとだけタイムスリップをしたような、そんな感じ。悪くはない、しかしそこまで。
もう少し元気があってもよいのでは。読者は勝手なことを言う。


蛇足:作中に触れられる特撮番組「キャタスロフィン」の主題歌のなかのフレーズ「なにマジになってるんだって言われたら なぜマジにならないって言いかえせ」を主題(テーマ)にした連作短編集のほうが、よい作品になったような気が。ちょっと勿体ない。
蛇足2:書評というか、感想に短編集の全話のあらすじなんて、書くべきではないなぁ。ちょっと反省。