マルコの夢

マルコの夢

マルコの夢

「マルコの夢」栗田有起(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、キノコ、パリ、家族、運命


キノコとりがキノコになる。
くすっと笑ってしまった。「茸」って「木乃伊(みいら)」に字面が似ているかもと思ったけど、書いてみたらそれほど似てない。
様々な形態で共生する二人の女性を描いてきた栗田有起の新作。本作の主人公は、女性ではなく、就職活動すれど、なぜか就職に縁遠い青年、奥村一馬。今までの作品とちょっと違うかなと思ったものが、読了後の感想は「共生」というキーワード。あるひとつ家族をとりまく運命というか、運命にとりこまれた家族というか、。


ことごとく就職活動が失敗していた名古屋に住む大学生一馬は、女子大を辞めてパリに住み、フランス人の夫とともに輸入代行を営む姉に呼ばれ、仕事を手伝う羽目になった。ところがある日を境に、三つ星レストラン「ル・コルドン・ブルー」のキノコ担当として働くことになってしまった。店の名物は「マルコ」と呼ばれる、幻のキノコの料理。東洋のどこかでとれる貴重なキノコ。この料理を食べられるのはパリの星の数ほどのレストランのなかで「ル・コルドン・ブルー」のみ。その特別なキノコを含む、キノコ担当として一馬は雇われた。
職場では、同年代のギョームとピコリという個性的な同僚に恵まれた。ギョームはメガネに個性としてヒビを入れている。ピコリは一日に一人だけ、気に入った女性からサインだけもらうことを楽しみにしている。
そんなある日、店のオーナー、エメ氏から頼みごとをされる。マルコを探しに日本へ行ってほしい。マルコは姉の会社だけが売買契約を交わしているらしいが、輸入量が不足している。ぜひ、日本へ行って、直接買ってきてほしい。
日本に戻った彼を待っていたのは、離婚届に判を押した母親だった。東京に行くなら、父親に会って判を押してきてほしい。父は東京の愛人のところにいるらしい。几帳面すぎる夫との一度目の結婚に懲りた母は、反動か、二度目の夫はかなりいい加減な男を選んでしまった。一定の仕事に就くことができず、行商などしていた男。一馬にとっては実の父、姉にとっては二番目の父。一馬と姉は異父姉弟であった。
幻のキノコ、マルコを捜し求め東京に出る一馬。そして、父の部屋にあったものは。キノコをキーワードに結び付けられる一馬の家族の運命とは。


132ページの薄い一冊。あっさり読了。何を読み取ればいいのか、ちょっと困ってしまった。名古屋名物TV塔が象徴するものは。日本はパリより乾いているのか。ゆるやかな、あたたかさに包まれてしまったような雰囲気の作品。心地よいのかもしれない、しかし、切り拓く運命とは遠い物語。悪くはないのだけれど・・。


蛇足:「就職できない」のキーワードは前作「オテルモル」にもあった。本作では主人公一馬の父親もきちんと就職できない人。
蛇足2:しかし、ぼくの街の図書館の新刊本選択基準がさっぱりわからない。なぜ、栗田有起はこんなに早いんだ?しかも、予約待ちほとんどなし。
http://kanata-kanata.at.webry.info/200601/article_19.html