嘘は止まらない

嘘は止まらない

嘘は止まらない

「嘘は止まらない」戸梶圭太(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、読み物、娯楽、ポップ、詐欺

トカジである。
久々にトカジらしい、ポップで、キッチュで、グルー、そしてゲロゲロな作品。あくまでも、大衆娯楽小説、読み物。肩の力を抜いて、思いっきりヘラヘラ読むべし。後に何か残ると思ってはいけない。好きな人はなぜか好き。くだらねぇと思う人は、それ、間違いない、正しい評価。正直言って、なぜ自分がトカジを読み続けているのか分からない。ある意味中毒。そいや、新堂冬樹も、その一人だった。最近、なんだかよれてきているけど。
やっぱり、B級グルメなんだよなぁ、俺。
って、一人称が「ぼく」から「俺」になっちゃうのは何故だ?。
最近ではない、昔ながらインスタントラーメンのような、駄菓子屋のお菓子のような、そんな安っぽい味、しかし気軽に食べられる、そんな作品。

須波栄輔51歳、パチスロ屋で、妙な歌を歌う黒人を見かける。身長150センチ、やせこけて、半端ない黒さ。小さな顔、頬骨とエラが強烈に飛び出し、絶壁頭、額は張り出し、こぎたない水色のスウェット、健康サンダル。パチスロで負けると、自転車に乗りフラフラと。気になり、尾行してみると、「ンゴラス王国大使館」という住宅街にある小汚い建物の中に姿を消した。図書館で調べると、その国の名前を発見、情報もほとんどないアフリカの小国。須波の頭にピンとくるものがあった。
以前一緒に仕事をした早乙女に連絡する、須波。そう彼は詐欺師だった。
黒人の正体は、ンゴラス王国大使オベンバ。須波の調査で分かったことは、街中で女の姿を追っかけ、ネットでエロ画像を見る、24時間女のことしか考えない、どうしようもない奴。しかし、こいつを利用して、ひと仕事できるのでは。
須波の目論見。ンゴラス王国をダイヤモンド鉱山のある国に仕立て上げる。ンゴラスは、十年以上の内戦で疲弊している軍事独裁政権の国。民主主義の反政府軍のスポンサーとなる投資家を集め、反政府軍のクーデター成功の暁には、スポンサーにダイヤモンドの巨額な利益が得られるというストーリでカモを集めるというもの。
「ンゴラス大使館」を舞台にし、様々な人物が集まりコンゲーム(詐欺)が始まる。

[早乙女裕也]結婚詐欺も行うちょっとスタイリッシュな詐欺師。以前須波とした仕事が須波のおかげで失敗。二度と須波とは組むまいと思っていた。人脈もあり、今回はうまくいくかと思ったのだが・・。前半の須波と早乙女の会話のちょっとズレた会話が妙にハマった。
[相葉通代]大物詐欺師。以前ひっかけたサカナ(カモ)に見つかり、半死半生の目に遭い、今は車椅子の生活に。娘のサリー(沙里)が後を継ぐ。
[沙里]美貌の女詐欺師。通代の娘。網を張る(カモを集める)のが得意。
[マント]ンゴラス王国大使館書記官。ツケモノ工場で働きながら、書記官の勤めを果たす。マジメな青年。バカな大使オベンバには愛想をつかしている。祖国の名誉にかけ、祖国を侮辱した詐欺の舞台に集まった、金の亡者と決闘を行う。
[滝田松太郎]元官僚。妻に連れられたバレエ公園で、沙里扮する井上涼子に出会い、詐欺に取り込まれる、元官僚。出会いサイトで死りった女子高生とことが明るみに出たことより逮捕、官僚を辞めた。仲間に女子高校生を紹介していたが、逮捕されたとき一切名を明かさなかった。涼子にいい顔ができ、さらに儲かる。昔の仲間を説明会に集める、マヌケ。
[ヒッパカ中尉]ンゴラス王国陸軍中尉。部下三人を引き連れ、勝手に隣国ガンピアへ侵攻。ンゴラスの軍事裁判で十年の懲役を宣告された。服役中に脱獄、各国のンゴラス大使館を転々とし、ついに日本へ密入国。想定外の人物の登場で・・。

トカジらしい、ドタバタ、スラップスティックな作品。主人公であったはずの須波が可哀想(笑)。オベンバもね。

正直、以前の作品に比べると読みやすいというか、毒がないというか、まとまっているというか。もっとハチャメチャにやってくれ!というのも率直な感想。もっともトカジらしい描写は、元官僚滝田松太郎が、沙里の演ずる井上涼子とドライブするシーンくらい。バカップルがキスしながら運転する車が、滝田の車を猛スピードで追い抜き、センターラインを飛び越え、トレーラーにぶつかり、内蔵と脳髄をまき散らす描写くらいか。オベンバの女狂いの描写も、以前と比べると生ぬるい気が。

ま、そのぬるさをもして、トカジなのかもしれないが。万人には絶対オススメしない。絶対。