阿修羅ガール

阿修羅ガール (新潮文庫)

阿修羅ガール (新潮文庫)

阿修羅ガール

阿修羅ガール

阿修羅ガール舞城王太郎(2003)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、文学、風俗 、三島由紀夫賞


!注意!詳細なあらすじあり。あらすじだけでは本作品は評価できないハズですが、未読者は注意願います。


読んだのは今年(2005年)に出版された文庫本。表題作と、短編「川を泳いで渡る蛇」の二作収録。短編のほうは、表題作との関わりなし。文体だけ見ると確かに舞城だが、でも、もしこれを白石一文の作品と言われても納得しちゃうかも。短編のほうがこじんまりとまとまっており、個人的には好感は持てる。その分、ありきたりな、と言われても否定できない、が。
で、問題の「阿修羅ガール」。舞城は「好き好き大好き超愛している。」[url http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/2044250.html]で、もういいやと思っていたのだが、家人が文庫本なぞ買ってきた。近所のスーパー銭湯で、ぼけら〜っと露天風呂に漬かりながら、あるいは、同じ露天のうたた寝湯なる、背中をお湯が流れるお風呂でぼけ〜っと過ごす時間の暇潰しに読んでみた。

結論は、おそらく賛否両論たらしめた訳のわからない、妙な寓意性を秘めた第二部のあたりをもう少しなんとかできたら、それほど悪くはないのかな。尤も、この第二部をして、この作品なのだという意見も、頷けなくはないのだが。

第一部「アルマゲンドン」、第二部「三門」崖、森、グルグル魔人、第三部「JUMPSTART MY HEART」の三部から成る。

第一部「アルマゲンドン]
「減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った私の自尊心」
佐野というどうしようもない同級生と、興味本位のセックスをするアイコ。佐野の動作、言葉が、醒めたアイコにはうざったく、気持ち悪く仕方ない。挙句、最後にどっかのAVの見真似で顔射をしようとするのを、あやうく避け、顔面を蹴飛ばし、逃げ帰る。あぁ、最悪。
翌日、学校に行くと、突然トイレに呼び出され、シメられることに。何?わけわかんないよ。ワケもわからないままシメられるアイコじゃない、お兄ちゃんに教わった、一番強そうな奴をできるだけ殴る。街を歩けば、スカウトの声もかかる美少女マキが、今、仲間のシメのボス。剣道とテニスで鍛えた脚で蹴りをいれ、鼻筋にも膝で蹴り、鼻血を流すマキ。ビビりまくる皆。話を聞くと、昨夜、最後にアイコと一緒に消えてから、佐野が行方不明、殺されちゃったらしい。アイコ、何かしたんじゃない。昨日、何があったの。何もない、うざいからホテル置いてきた。アリバイは?やっぱり何かしたんじゃない。そんな女子トイレに陽治が助けに来てくれた。陽治、小学生のころから気になる奴。
家に帰り、色々考えた。翌日、陽治に一緒に佐野のこと調べようとメールをする。ふたりだけで、のつもりが陽治は友人たちと学校サボっているらしい、ちぇっ。
陽治が家にやってきた。それも一人で。不謹慎にも下着を可愛いものに替え、ちょっと期待し、陽治とふたりで公園に向かうアイコ。「手が届きそうなところで誰か困ってたら、手を貸すじゃん。エチオピアの難民がとか言われても、俺、汗かく気しないし−」そんな正直な物言いの陽治がいい。でも、陽治にはヒーローにもなってほしい。面倒くささに勝って欲しい。そしたら全力で応援し、愛し続けてあげるのに。でも、そんな陽治はわたしに全然興味ないことがわかっちゃった。泣くぞ。
そんなアイコを置いて、陽治が見つけたのは、白昼堂々と泣きながらセックスをするおじさんとおばさん。陽治が幾ら止めてもセックスをやめない。そんなふたりだったが、色白で眼鏡かけて、変な帽子をかぶっているみたいに中途半端な長い髪をした、変な人がやってきたらセックスをやめた。
セックスをしていたのは、グルグル魔人と名乗る犯人に三つ子の子供を連れ去られ、殺害、バラバラにされ捨てられた吉羽さん夫婦だった。
インターネットの巨大掲示板<天の声>では、グルグル魔人騒ぎに乗じた中学生(=厨房)狩り、アルマゲドンがアイコの住む調布で始まっていた。兄は、友人のもとに出、ひとり家に残されるアイコ。陽治来てよ。今から行くから。<天の声>に自分の悪口を書き込むアイコ。街の暴徒の中をくぐり抜け、アイコを助けに来る陽治を夢見ながら。しかし、そこにやってきたのは・・。


第二部「三門」

  • 崖-

アルマゲンドンの中、逃げまどうアイコ。谷を渡るためにヘリコプターに乗るアイコを呼ぶのは、向こう側にいる佐野。そっちにいくな。こっちに来い。陽治が叫ぶ。追いかけてくる佐野。アイコを助けるのは、長髪の気持ち悪いオタクっぽい、桜月淡雪。お台場の占い師。脱出劇の最中、陽治に自分のことをどう思うか聞くアイコ。「え?友達じゃ駄目?」。終わった。

  • 森-

アイコの心の中の友達シャスティンと、その友達の物語。西の森では、子供たちを切り刻んで殺してしまう魔物がいる。その森に迷い込み、ひとり、そしてまたひとりと餌食となる子供たち。

  • グルグル魔人-

吉羽さんの子供を殺害した、グルグル魔人を名乗る男の物語。母親を怒鳴りつけ、暴力する男。自分が殺した三つ子の父親も自殺したらしい。葬式が近くにある、ちょっと覗きに行ってみよう。葬儀の場所で、女の子の声が聞こえる。え?陽治?男がひとり近づいてきた。頭の中で声のする女の子をあなたから出したい。俺に近づくな、え?お巡り?逃げろ!


第三部「JUMPSTART MY HEART」
桜井淡月が自分で焙じたほうじ茶と、水で時間をかけてだした冷たい緑茶、そして淡月の作った水饅頭。
事件のあと、永願寺という阿修羅像が収められた寺で、桜井淡月、陽治、そして吉羽さんの奥さんだった沙耶香さんと茶を飲むアイコ。淡月の和菓子は美味しいが、一個しかくれない。美味しいものはダラダラ食べずに短い間に全てを味わうよう集中したほうがいい、というのが桜月淡月の持論なのだ。
三途の川を渡りかけた私に、手を振って、満面の笑みを浮かべ、嬉しいって感じの淡月の笑顔にほだされ、こちらの崖に行ってしまった。そして握ってくれた手の感じが優しかった。横顔はダサかったけど。
あーあ。せめて、もう少し普通の容姿をしてくれたらな。
もう、エッチなことは大好きな人としかしない。私を大事にしてくれて、私を必ず守ってくれて、私のために戦ってくれる人。そして、私は、私がその人を守ってあげたくて、その人のために戦ってあげたいような、そんな人。その人のことを思うだけで心臓が止まっちゃうような人、そして何よりも、私の止まった心臓を、何ていうか、ジャンプスタートさせてくれる人。
・・・・あれ。
なんか桜月淡雪の顔がうかぶけど、でもこれはなんかの間違いだろう。
とりあえず、桜月淡雪と歩いているこの堤防が、私のこっち側。


かなり、恣意的にあらすじをまとめてみた。おそらく、多くの文学論者は主人公のたたみかけるようなモノローグ、あるいは「阿修羅」仏教用語としての「三門」そして2ちゃんねるを模したネットの掲示板に「天の声」と名づけたことに象徴されること、あるいは荒唐無稽さに翻弄されることになんらの価値を見出し、新しい文学と評価しているのだろう。しかし、ぼくの本作品の読み方はガール・ミーツ・ボーイの物語。ネットの評者の多くが、大団円にまとめすぎたと評する第三部があってこそ、この作品は救われたと感じる。


勿論「阿修羅」に象徴される事柄を読み取り、あるいは第二部の「森」をして第三部でアイコの語る、ヒトの中の誰もが持つ「暗い森」と位置づけるのも間違いではない。でもね、ならば、このモノローグ文体をして、そこに辿り着かせるのはちょっと、不親切、もっと分かり易い書き方でもいいのではないかと個人的には思う。え?それじゃ、文学じゃない?文学じゃなくて、結構。だって、ぼくは物語や小説を愛し、わからないことを、わかったような顔をして褒める読者じゃないから。
ゆえに、ぼくは、若者たちの放埓な性の世界なかで、本当に大事に想うことを学び、成長する少女の物語としてこの物語を評価したい。え?ダメ?


おまけ
短編「川を泳いで渡る蛇」あらすじ
兄と喧嘩して、兄夫婦の家を飛び出した母。そっちにいってないかと尋ねる兄の電話。そちらに行くかもしれない。売れない新人の物書きの僕。そんな僕のもとへ恋人の栄美子が電話をかけてきた。電車で寝過ごしたので、迎えに来て欲しい。栄美子を迎えに行く僕に、またもや兄の電話。なぜ、家にいない。家にいろ。母ちゃんが行くかもしれない。うるさい。俺が貸した金返せ。帰すよ。てめぇ殺す。
迎えに行った先で、栄美子も、ひとりで自転車で帰るからとだだをこねる。栄美子を置いて、タクシーに乗る僕。果たして、僕のマンションの前には母がタクシーで来ていた。母のタクシー代を払った僕だが、栄美子を迎えに行くことに。栄美子はひとりで立ったまま眠っていた。
母と栄美子を寝かせながら、朝を待つ。兄を思う