探偵は黒服

探偵は黒服

探偵は黒服

「探偵は黒服」藤田宜永(2005)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、探偵、銀座、高級クラブ


元冒険小説、ミステリーの雄、あるいは小池真理子のご主人、夫婦それぞれが直木賞受賞、現在はすっかり恋愛小説家の大家となってしまった藤田宜永氏の新作。タイトルから、てっきり東直己の名無しの探偵同様のハードボイルドばりのミステリーへの復活を期待したら、まったく予想に違った。黒服とは銀座のクラブの従業員のこと、いわゆるボーイとかのあれ、主人公は次長というタイトルは与えられているもののの、だから?といった感じ。


正直、どこを狙った作品かよくわからない。素人の主人公が探偵の真似事をし、最後に真犯人に辿り着く物語なのだが、共感がまったく湧かなかい。現代の人間関係、それが親子・兄弟関係でもあっても、それだけ希薄ということは事実なのかもしれない。しかし「人間」が絡まりあわない、空転しているような、そんな人間関係だけの物語。「複雑な人間関係」のはずなのに、そこに人間の生きた感情が入り込んでいないために、ただ、事実が羅列されているだけ。空疎な・・と言ってしまえるほど。その空疎さが、物語全体に漂い、寂寥感が独特のムードを醸しているのは事実。でも、主人公の妹の恋人、主人公の恋人の父親、そして主人公の恋人の弟の性癖がこうだと、やはり未来が見えない。主人公の恋人の性格もさっぱり掴めない。少なくとも、もう少し”人間”、そして”希望”を書いて欲しかった。
また、せっかく高級クラブを舞台にしているのだから、舞台をもっと活かして欲しかった。クラブを保育園に擬える、主人公が書こうとする小説の一部を冒頭に持ってきているのに、それがまったく生かされていない。いや、その意味では主人公が小説家志望と云う設定、および”黒服”という設定さえ、生かされていない。
高級クラブを舞台にした、冒険小説でも、ミステリーでもなく、また恋愛小説でもないこの作品で、藤田宜永はどこを目指したかったのだろう。


福光信輔三十三歳、銀座の高級クラブ”コネッサンス”の黒服。ある夜、店の女の子に頼まれた携帯電話を届けようと、抜け道である銀座の小さな路地を通り抜けようとしたとき、女性の死体を発見した。死体の身元は美咲という、最近まで信輔が勤める店に居たホステス。第一発見者である信輔は勿論、昔美咲と一緒に働いていて、今はソープ嬢となっている信輔の恋人、亜希のもとにも警察が事情聴衆にやってきた。第一発見者が、死体の知人、当たり前のように警察は信輔を疑っている。自らの、あるいは恋人亜希の容疑を晴らすため、独自の調査を始める信輔。
そして、新たな殺人事件が起きた。被害者は美咲同様に、以前コネッサンスで働いていたホステス佐里奈。犯人は店の関係者か?信輔の調査は続く。そして次々に現われる新事実。果たして真犯人は、その動機は?


被害者ふたりの携帯電話の着信音はアニメ”ポケモン”の主題歌だった。また、かって販売されたマニア向けAVアニメのSMビデオの主人公三人のうちの二人と名前が一致していた。次は三番目の主人公”花梨”という名のホステスが狙われるのか?


調査の過程で亜希と同居する、亜希の弟、昌史に繋がっていく。映画の”キャスパー”が大好き。昌史は美咲とも面識があり、美咲のことをキャスパーに似ていると言っていた。生身の女性には興味がなくAVアニメのSMビデオを集める昌史。犯人は恋人の弟なのか?
そして、美咲が行きつけていたサパーは、問題のAVビデオを作っていたスリースリー企画の社長の経営であった。昌史がここでも繋がっていた。
あるいは申し分ない若者のように見えた妹の恋人が、レンタルビデオ屋のAVコーナーでAVアニメのビデオを物色する様と出会う信輔。信頼していたクラブの客は、弁護士詐称で逮捕される。また、小説家志望で多額の借金を娘の肩代わりさせる、恋人亜希の父親。亜希自身も、未婚の母として娘を両親に預けっぱなしのまま。どこかしら荒んだ人々の姿を描きながら物語は進んでいく。


そして最後に明かされる真犯人の姿。え?いや、そうきたか?う〜ん。本格推理?(笑)


申し訳ないが、この作品、期待していただけに残念。