シムソンズ

シムソンズ

シムソンズ

シムソンズ森谷雄(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、女子高校生、カーリング、オリンピック


あこがれのマサト様に教えてもらえる?
サロマ湖まで家から往復20km。いつものように自転車で来た、湖畔のいきつけの喫茶店「しゃべりたい」。ジャズとカーリング好きなマスターから和子はひとつの情報をもらった。カーリング・チームを作ってイベントに参加すれば、マサト様からサイン入ブラシをもらえ、さらににカーリングを教えてもらえる?


もうすぐ映画が公開される「シムソンズ」の原作。ソルトレイクオリンピックに日本代表として出場したカーリングチーム「シムソンズ」をモデルとした小説。北海道常呂の女子高生四人がシムソンズを結成するまでのエピソード。


高校三年生の夏休みを目前に、伊藤和子は進路を決めあぐねていた。何をしたいのか、何をしていけばいいのか分からない。進学、それとも就職?皆が、それぞれだんだんと進路を決めて行くなかで、自分の進路を明確にイメージすることができなかった。夏休みの間によく考えろ、担任の大河内先生は優しく言ってくれたが・・。
舞台は北海道常呂。人口5,000人、知る人ぞ知るサロマンブルーの鮮やかなサロマ湖を有する、山と川と湖、そして海という豊かな自然に恵まれた町。ちっぽけで目立たない町だが、世界に誇れるものが三つある。ホタテ、遺跡、そしてカーリング。氷上のチェスと呼ばれるこのスポーツ、元はヨーロッパにあるスコットランドが発祥、その後移民を通じ、世界に広がっていった。日本にも1937年に長野で実演されたのが最初という事実はあったようだが、その後は日の目を見なかった。ここに登場するのが常呂に住む亜栗じいさん。1970年代後半にカナダとの交流のなかで、この町にカーリングを根付かせた伝説の人。当初はストーンもなく、ビールのアルミ樽にセメントを詰め込んで代用したとかの伝説もあるが、亜栗じいさんのおかげで常呂カーリングの町となった。常呂町にできた日本初の室内専用カーリングホールは国際規格に合格する本格的なもの。そして、カーリングが初の公式競技になった長野オリンピックでは、人口5,000人の常呂町から男女合わせ5人もの選手が常呂から選ばれたのだ。
長野オリンピックで日本チームは、アメリカとの接戦で惜しくも破れた。選手の一人、常呂出身の期待の新星加藤真人様が見せた一粒の涙。その涙に和子はやられてしまった。マサト様ぁ!
「マサト様に会える!」よこしまな考えで挑んだ和子であったが、美希の冷めた表情を見ていて、考えを変えた。やってやる。カーリングで勝ってやる!
美希、カーリングの天才美人少女として幼い頃から注目の的。有力チームホワイトエンジェルスのメンバーでもあったが、数年前、試合中に突然リンクの真ん中に飛び出し、大暴れをした。それ以来チームも辞め、クールに過ごす日々を送っていた。美希がなぜあんなことをしたのか真相を誰も知らない。しかし今回、和子がカーリングのチームを結成するにあたり「しゃべりたい」のマスターに頼まれたのは、美希を仲間にすること。それはマサト様の希望でもあるという。
さっそく和子は、史江と菜摘を仲間にしてチームを結成。チームの名前はシムソンズ。たまたまテレビに映っていたアメリカのアニメ「シンプソンズ」を菜摘が間違えたのだ。和子はその間違いに気づいていた。でも、盛り上がってるし、響きもいいし、シムソンズに決定だ。
頭はいいのに勉強熱心でなく、どちらかといえば運動音痴の史江。農家の一人娘で性格も男っぽい菜摘。冷静に、感情を抑え、そつなくこなす美樹、そして明るく、リーダーシップもある和子の四人でシムソンズは結成された。
マサト様からの練習を期待するも、現実は大河内先生の基礎トレーニングで始まった。そして三週間が過ぎた。明日からコーチが変わると先生が宣言した。やったぁ!マサト様ぁ!
化粧もばっちり決めて集合場所に集まった。・・・だのに、そこにはボサボサ頭に無精ひげの子連れ男。マサト様の師匠だという大宮コーチ。でも、やかんに車輪をつけたやかんカーで練習だなんて・・。
当ての外れた練習のなかで、本当の友情と、チームができた。和子の母の作った揃いのユニフォームで、エキビションマッチに参加、シムソンズの出番だぁ!


女の子がひたむきに頑張っちゃうという物語は個人的には大好きなジャンル。不器用に、ひたむきにって、絶対いまどきじゃないけど、やっぱり気持ちいいもんだ。本作品も基本的にはその路線。だから、すごく期待していた。映画の原作であっても、きちんと書かれていると思っっていた。しかし、なんだかちょっと違う。わかりやすいエッセンスだけが抜き出されたという感じ。本当は、もっと葛藤や衝突、苦労もあったはずなのに。たしかに作品で事実は書かれている。しかし、うわべだけをすくったという感じがした。わかりやすいステレオタイプ。もう少し中身が欲しい、それは過度な期待なのだろうか。
実は、本作品、実在したカーリングチーム、シムソンズをモデルにしてはいるが、決してノンフィクションではない。下記に参考として示した共同通信の当時ニュースによると、登場人物それぞれの名前も違えば、チームの結成時期も高校時代ではない。中学時代だとある。せっかく実在したチームと、「本当のこと」を売りにするならば、ノンフィクションにすべきだったのではないか。あるいは逆に、あくまでフィクションとして、シムソンズをモデルと徹しきり、チーム名から変えるべきだったのではないか。どちらかきちんと寄って欲しい、個人的にはそう思う。
また、本作品はチーム結成時のエピソードであったが、願わくば成長したチームに繋げる描写が必要かと思う。そうでなければノンフィクションにせよ、フィクションにせよこのシムソンズというチームをモデルにした意味がないと思う。テーマは悪くない。しかし少なくとも小説という分野での料理方法はいまひとつ。
さて、近く公開される映画はどうなのだろうか。


蛇足:実際にソルトレイクで活躍された実在の「シムソンズ」を扱った共同通信のURL[ http://news.kyodo.co.jp/kyodonews/2002/saltlake/curling/0213.shtml ]
蛇足2:近く公開される映画と原作小説は、同一人物がプロデューサー(作家)をしているが、微妙にストーリーも違うよう。小説と映画の内容が少し違うことはありがちなのだが、映画では「本当にあった青春ストーリー」とサブタイトルをつけている。「本当」って何?なんか、やっぱりふに落ちない。ちぇっ。