HEROごっこ

HEROごっこ

HEROごっこ

「HEROごっこ山下貴光(2005)☆☆★★★
※[913]、国内、現代、小説、ミステリー、誘拐、第6回U-30準大賞、青春
※思いっきり辛口です。


ちょっと気軽に読みたいなと思って図書館の書架から手に取った。ある程度ライトな作品であることは、最初から判っていたつもりだったのだが、読了して、いや読んでいる最中から唸っていた。毒にも薬にもならない作品。期待してはいなかったのだが・・・。
帯に「爽快青春小説の傑作」とあるが、それはどうか?若者が主人公なだけでは、青春小説でないと、常々ぼくは言ってきた。この作品も最近の若者向け小説に違わず、成長も希望もない。いや、もしかしたら同じ主人公二人による続篇を期待させるだけの希望はあるのかもしれないが、青春小説というほどの力はない。
個人的には、この作品、タイトルどおりもっと痛快無比、荒唐無稽なヒーローごっこを期待したかった。特に作品冒頭で、街のちんぴら二人を無茶苦茶な屁理屈で論破し、恵まれないこどものために募金をさせるというエピソードがちょっと(だけ)うまい。それだけに惜しい。というわけで、何がなんでも正義の味方、って作品を期待するとハズされる。


この春大学に入学し、高松で一人暮らしをする主人公、本間正樹。ある日、バイトの面接の結果の電話を待っていると、母親から離婚することになったと電話がはいった。学費のほうは大丈夫だけど、仕送りはできなくなる。
誰かに両親の離婚を話したくなり、翌日大学の講義でたまたま隣に座った、甘いマスクの細身の男に声をかけてしまった。初対面の成宮と名乗る男に、離婚のこと、仕送りが止まることを話したことから、自動車泥棒の手伝いをさせられることに。いや、それが転じて、誘拐事件の犯人退治に巻き込まれることになった。
小賢しく弁が立つ成宮にまるめこまれ、自動車泥棒の片棒を担がされるその決行日、向かった駐車場で思いもよらない出来事が起きた。狙いをつけていたランボルギーニディアブロには、15歳の少女が拉致されていた。薬で眠らされているのか気を失う少女、を自分の部屋に連れ帰る羽目になる。翌朝、希美と名乗る少女が語るには、前日から誘拐されていた。警察に届けよう、ぼくの言葉を遮り、成宮は言った「本間、ヒーローになりたくないか?」「ヒーローは悪を倒すからヒーローなんだ」。成宮の弁に、希美も説得され、ぼくらの誘拐犯退治が始まった。そしてぼくらが最後に知る、誘拐事件の驚くべき真相は?。


「驚くべき真相」かどうかは別として、ネタバレにふれないようにあらすじを書くとたったこれだけ。某所で「長すぎる粗筋は云々」と指摘されたことに反省したわけでなく、本当にこれだけの作品。ネタバレを含んでも、あまり変わらないし、第一ネタバレというほどのネタでもない。
フリッカー式-鏡公彦にうってつけの殺人-」(佐藤友哉)[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/9084250.html ]でも語ったような、いまどきのスタイルの小説。饒舌で、小賢しくて、小憎らしくて、屁理屈ばかりの、人を小馬鹿にしたような青年、この10年ほどで多く見られるようになった類型的な人間像。いや、もとはシャーロック・ホームズあたりか、。しかしこういう人物像、最近多くないか?そして作品の主人公は、この小賢しい人物の場合もあれば、小賢しい人物に翻弄されるワトスンタイプの場合もあるが、一人称のぼくの語りで進むスタイル。これも本当に多く見るようになった。ちょっと飽きてきたぞ。尤も日本の小説の場合、一人称か、三人称が基本。稀に二人称があるが、新鮮だけど、ちょっと違和感。そういう意味では仕方がない。でも、確かに仕方ないのだけれど、とくに昨今、いわゆる人を煙に巻くような小洒落た会話を中心に進める形式に作品多すぎないか。
で、結局こういう類例多いパターンの作品に違わず、作家の思いつきを、会話で引き延ばす物語。緻密さに欠ける。主人公の、あるいは作家の思いこみ、独りよがりの視点からのみ描かれるために、作品世界に浸っている間は気持ちよいのかもしれないが、ちょっと客観的に見ると、穴だらけ。つっこみどころ満載は、計算されている場合もあれど、この作品にそれだけの深みもない。荒唐無稽を目指して書かれたならば許される描写も、明らかにそこを狙ったものでなければ、ただの欠点。少なくとも、もっと客観的に納得させるだけの設定、描写は必要。一例は警察の行動。もっとしっかり捜査活動するでしょう。中途半端な街のお巡りさんの描写だけが空回り。
あぁぁ。


出版社は文芸社。在る意味、話題の出版社。なるほど、ちょっと頷ける。U-30大賞という文芸賞がどのような目的な、どんな賞か知らないが(知りたくないが)、この作品にミステリーを期待すると思いっきりスカされる。残念ながら時間つぶしにもならない。残念ながら、次回作に期待、もできない。