窓の灯

窓の灯

窓の灯

「窓の灯」青山七恵(2005)☆☆☆★★
※[913]、国内、現代、小説、短編、文芸、第42文藝賞受賞


史上最年少で文藝賞を受賞した「平成マシンガンズ三並夏と同時受賞。22歳受賞で、決して若くないとはいえない年齢での受賞なのだが、若年層が受賞することが当たり前になってしまった新人のための賞においては、当たり前の年齢なのか、三並夏に比べあまりメディア等でも、その名前の取り上げられることのない作品。もっとも三並夏にしても、最年少受賞時以降は、それ以前に同賞を受賞した綿矢りさ「インストール」、あるいは昨年の受賞作、こちらはTVドラマになったおかげで知名度アップ、白岩玄野ブタ。をプロデュース」、タイトルで驚かせた山崎ナオコーラ人のセックスを笑うな」らの作品に比べれば、決して メディアにとりあげられているとも思えない。
実は恥ずかしながら、綿矢さえ未読、一応三並夏は予約中であるが、文学の賞で、受賞者の年齢がどうこうといって騒ぐのは、どうなのかといつも思う。若い瑞々しい感性とか、この年齢でおそるべし・・とか、作家は確かに作品を選ぶ基準にはなるが、最終的には作品が勝負だと考えるぼくとしては、作家の年齢はどちらかといえば、どうでもよいこと。いや、ともすればいわゆる賞の受賞さえ、あまり気にならない。これは、直木賞芥川賞であっても同じ。決して否定はしないが、逆に騒がれすぎるとひいてしまう。綿矢りさ金原ひとみを未読なのもそうした理由。ただ、同じように食わず嫌いだった島本理生を、ふとしたきっかけで手に取りヤラれてしまったことを思うと、徒に食わず嫌いもいかんかなとも思うところもある。


さて本作品、そういう意味ではせっかくの文藝賞受賞作なのに、哀しくも騒がれない、取り上げられない、そんな感じがする。ネットの書評のなかには「平成マシンガンズ」よりは評価するとの意見もあったが、こちらはまだ読んでないのでなんとも言えない。しかし、その程度の取り上げられかた。実は、正直、ぼくもなんとも言えないというのが率直な感想。こう言ってはなんだが、何かありそうな予感はするが、それが何なのかぼくには掴みきれない。悪くはないのだが、こう、この作家オリジナルという強い個性が感じられなかった。確かにこの作品の醸しだす雰囲気は悪くない、しかし余計なお世話かもしれないが、このあと、この次に何があるのだろうと、思わずにいられない。強くキラキラと輝く力がない。ひとつひとつの作品で勝負と、言いながらこの作家の次の作品に思いを馳せるというのも我ながらおかしいと思うのだが、強いて言えばこの作品は掌編といわれるような淡い灯のような作品、そんな作品で、文学賞の受賞作としてデビューすることはどうなのだろうか。余計なことばかり思ってしまう。


つまり、そういう作品。作品自体を評するはずが、それ以外のことに気をとらわれてしまう。簡単に言えば、悪くないのだが、読者をぐいぐい引き込む力強さはない。それはこの作品の弱点や欠点ではなく、そういう作品であり、この作品の魅力、個性。ただ率直に言えば、ぼくにとっては、よくも悪くもない作品。強いて言えば、同じように淡々と書く若い女流作家、島本理生にはひっかかるものがあったが、この作品、作家にはひっかるものが、まだない。
いや、しかし、この作家を否定するわけではない。このあとどのように進むのか、ちょっと気になる作家の一人という位置づけ。ちょっとだけ楽しみ。


大学を中退し、夕方に起き出してはアパートの近くの喫茶店で、何度も読んだ古びた文庫本で、ただ漫然と時を過ごす日々。そんなまりもに、店の主人である姉さんは声をかけてくれた。店の二階が住居のなっているけれど、住み込みで働かない?両親ともゴタゴタしていて、貯金も底をつきかけていたまりもにとって、断る理由のない申し出。こうしてまりもとミカド姉さんの生活が始まった。ある日、まりもは自分の隣のアパートの向かいの部屋に人が越してきたことに気づいた。今まで人目を気にすることなく、カーテンを開け放して気ままに過ごしてきたまりもであったが、そんな生活は続けられない。人目を気にしカーテンを閉めたまりもは、今度は自分が人目として向かいのレースのカーテンを通す生活を覗き見る。そこには若い男性が住み、あるいはその男性の彼女とおぼしき若い女が遊びに来る。
しかし作品は、そのことを追い続けるのでなく、焦点を姉さんとまりもの生活に移す。姉さんは、決してとりたてて美人とはいえないが、その女性らしい姿、立ち居振る舞い、白い肌に、まりもは惹かれる。しかしそれは勿論まりもだけでなく、姉さんを目当てに多くの男性客が店にやって来る。姉さんはまりもの部屋と壁一枚を隔てた隣の部屋に住む。そして多数の恋人が姉さんの部屋を訪れる。まりもに聞こえるのは、姉さんと恋人のたてる音。
そうした日々のなか、姉さんの大学時代の先生が店に現われた。明らかに今までの恋人に対する態度と違う姉さんの姿に、まりもは・・。


官能という言葉をこの作品を紹介する文章の中に見つけた。夏の暑い夜を、彷徨い、窓の灯りを通し、まりもが見つめるものは。あるいは姉さんの姿、声。あからさまな官能ではないものの、これは明らかに”大人の小説”。きれいごとだけの作品ではない。そして、最後のオチで、それがまりもだけのコトでないことが明かされる。この後もまりもの生活はひっそりと続くのだろう。新たに姉さんに言えない秘密を抱えたまま・・。 、


この作品、悪くはないんだ。本当に。