忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

「忘れないと誓ったぼくがいた」平山瑞穂(2006)☆☆☆☆☆
※[913]、国内、現代、小説、恋愛、SF、ファンタジー


明日になってみればわからない、いや、今晩でも・・でも、いま、この瞬間、ぼくはこの作品にやられてしまった。
ありがちな設定、ありがちな恋愛、ありがちな物語。でも、この痛み、哀しみはぼくの心を見事に突き通した。震えた。
小品であり、佳作である。でも、ある種の年代の、ある種の人たちにはこの作品の描く哀愁というか、切なさがとても響くだろう。
万人に受ける作品ではないかもしれない、しかし、敢えていまオススメしたい。


その書名、装丁を見ただけならきっと借りなかった一冊。いま流行りのライトノベルかと、一蹴してしまっただろう。しかし、たまたま見かけた敬愛する本読み人仲間でこぽんさんのブログでその書名を見かけ、あれ、この作家もしかして?。そう、2004年度の日本ファンタジーノベル大賞を奇作「ラス・マンチャス通信」[ http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/9666258.html ]で受賞した平山瑞穂。でこぽんさんも褒めてらっしゃるし、第一あの奇作をものにした作家が、そのデビュー第二作にどのような作品を描いたのか気になる。しかも、この正統派なタイトル。


今回、あえてあらすじは書かない。それは、ぜひ未読の方に読んで欲しいから。とにかく、まずは読んでほしい一冊。
※オビより
「君はホントに存在したの・・・?君の存在を証明するのは、ぼくの手元に残されたたった数分の映像だけ。激しく切ない恋愛小説」
「たとえ世界中の誰もが君を忘れてしまっても、ぼくだけは君を憶えている!
高校時代。優等生だったぼくの心を一瞬にして奪い去った君。大好きで、いつも一緒にいたくて仕方がなかった。なのに、いま、ぼくは君の顔さえも思い出せないんだ・・。いったい、なぜ?君はホントに存在したの?−−−時の裂け目に消えてゆく少女と、避けられない運命を変えようと必死にもが少年の恋を描いた、激しく切ない恋愛小説。」


「激しい」か「時の裂け目」なのかは、ちょっと疑問だが、概ね、オビは本書の内容をきちんと伝えている。だから、こういう本だと認識して、さてどういう話しなのかと思って読んで欲しい。
神奈川の県立高校に通う頃、ぼくが思い描いていた可愛い女の子。高校生になっても、日曜日にお母さんと伊勢佐木町にお買い物に行く女の子。それは元町ではなく、伊勢佐木町、それもお母さんのいいつけで、きちんとした格好をして、というのがひとつのイメージだった。ふつうにラフな服装で、横浜とかで買い物するのは当たり前だが、ちょっと不満げにきちんとした格好をさせられ、実際は大した物を購入するわけでもなく伊勢佐木町をお母さんと二人で買い物をする。そして、お母さんとの買い物から解放されたあとは、伊勢佐木町にある書店、有隣堂で待ち合わせをしてデートをする。妄想です。残念ながら、実際にはそういうこと一切なかった。でも、制服でも、カジュアルな服装でもない普段見かけることがないちょっときちんとした格好をした女の子と、無理のないシチュエーションで街で逢うなんて、なんかいいでしょ?今日は、お洒落だね、なんて軽口を訊くと、お母さんに着せられて・・と言い訳をしつつ、満更でもないような表情で・・。
あるいは、高校生なのに、まだ大きくなるかもしれないとワンサイズ上の制服を着せられた女の子。ベルトを締めたジャンパースカートに寄った縦皺が、とてもキュートだった。結局、その娘のジャンパースカートの縦皺が消えたかどうかは知らないけど。


手を繋いで歩く関係もいいけど、でも、ふと肩が触れ合った瞬間の喜び。あるいは、指先がかすかに触れただけの幸せ。お互い手探りで、結局、きちんと確かめ合うこともなかったけれど、痛い切ない想いに溢れたあの頃。そういう時代(とき)を過ごした人なら、この作品はやられてしまうに違いない。
いまどきの若者にしては、どちらかというと古くさいタイプ?の主人公たち。作家は1968年生まれだから、もしかしたら、ぼくらの時代の憧れをこの作品に投影しているのかもしれない。でも、いまどきの若者もこうあってほしいな。
この作品がとても好ましかったのは、確かめ合うために身体を重ねることがなかったこと。そういうことがあってもおかしくない作品で、敢えて、作家はそれを書かなかった。これも、同年代の男性作家がゆえか?甘いとか、ありがちとか言われても、この想いを描ききったこと、ぼくはそれを評価する。


「忘れないと誓ったぼくがいた」を、ぼくは忘れない、絶対。そう思いたい一冊。


蛇足:ありがちだが、敢えて大林宣彦あたりに映画化して欲しい。
蛇足2:マンガ家、桂正和あたりの作品に匂いが似ている。
蛇足3:一応、客観的に。この作品の設定はうまい。記憶はともかく、記録の問題についても、敢えて、主人公と彼女のふたりだけの世界を中心に描き、世界を広げなかったことによって成功していると思える。尤も、学校の記録の問題は、ひっかかる人にはひっかかると思う。
蛇足4:備忘として、主人公タカシ、織部あずさ。主人公の友人ヒロト